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五常訓 / 巻之二・仁之上

一孔子の敎は、唯仁の一字を專らとし給ふは、仁は四德を統べ、萬善百行の本とする理なればなり。しかれば人道は唯ひとへに仁を以て本とせり。仁義禮智は人の性の條目なれど、皆仁より出づる所にして、仁わかれて四となれり。是を以て、五常は仁を本とす。仁を以て、義禮智を兼ぬ。仁は仁の本體なり。禮は仁の節文なり。義は仁の斷制なり。智は仁の分別なり。是四德は、皆仁にこもれり。たとへば春は生氣の初なり。夏は生氣の長ずるなり。秋は生氣のをさまるなり。冬は生氣のかくるゝなり。是春を以て夏秋冬を兼ぬ。仁の義禮智を兼ぬるも、亦かくの如し。故に明道の曰、義禮智皆仁也と。されど仁義禮智のわかてるは何ぞや。仁の内、自ら此四德あり。これをわかてば、仁の理いよいよ明なり。四にわかつは、仁の理を明かにせんが爲なり。四時をわかてば、一年の元氣の運行明白にして、知りやすきが如し。

新字:一孔子の教は、唯仁の一字を専らとし給ふは、仁は四徳を統べ、万善百行の本とする理なればなり。しかれば人道は唯ひとへに仁を以て本とせり。仁義礼智は人の性の条目なれど、皆仁より出づる所にして、仁わかれて四となれり。是を以て、五常は仁を本とす。仁を以て、義礼智を兼ぬ。仁は仁の本体なり。礼は仁の節文なり。義は仁の断制なり。智は仁の分別なり。是四徳は、皆仁にこもれり。たとへば春は生気の初なり。夏は生気の長ずるなり。秋は生気のをさまるなり。冬は生気のかくるゝなり。是春を以て夏秋冬を兼ぬ。仁の義礼智を兼ぬるも、亦かくの如し。故に明道の曰、義礼智皆仁也と。されど仁義礼智のわかてるは何ぞや。仁の内、自ら此四徳あり。これをわかてば、仁の理いよいよ明なり。四にわかつは、仁の理を明かにせんが為なり。四時をわかてば、一年の元気の運行明白にして、知りやすきが如し。

書き下し

一孔子の教は、唯仁の一字を専らとし給ふは、仁は四徳を統べ、万善百行の本とする理なればなり。しかれば人道は唯ひとへに仁を以て本とせり。仁義礼智は人の性の条目なれど、皆仁より出づる所にして、仁わかれて四となれり。是を以て、五常は仁を本とす。仁を以て、義礼智を兼ぬ。仁は仁の本体なり。礼は仁の節文なり。義は仁の断制なり。智は仁の分別なり。是四徳は、皆仁にこもれり。たとへば春は生気の初なり。夏は生気の長ずるなり。秋は生気のをさまるなり。冬は生気のかくるるなり。是春を以て夏秋冬を兼ぬ。仁の義礼智を兼ぬるも、亦かくの如し。故に明道の曰く、義礼智は皆仁なりと。されど仁義礼智のわかてるは何ぞや。仁の内、自ら此四徳あり。これをわかてば、仁の理いよいよ明なり。四にわかつは、仁の理を明かにせんが為なり。四時をわかてば、一年の元気の運行明白にして、知りやすきが如し。

現代語訳

孔子の教えが、ただ仁の一字をもっぱらとされたのは、仁は四徳をすべ、あらゆる善と行いの本とする理だからです。それゆえ人の道は、ただひとえに仁を本としています。仁義礼智は人の性の条目ですが、みな仁から出るもので、仁が分かれて四つとなったのです。これによって五常は仁を本とします。仁によって義礼智をかねます。仁は仁の本体です。礼は仁の節文です。義は仁の断制です。智は仁の分別です。この四徳はみな仁にこもっています。たとえば春は生気の始まりです。夏は生気の伸びるものです。秋は生気の収まるものです。冬は生気の隠れるものです。これは春が夏秋冬をかねることです。仁が義礼智をかねるのも、またこのようなものです。ゆえに明道(程顥)は「義礼智はみな仁である」といいました。けれども仁義礼智が分かれているのはなぜでしょうか。仁の中に、おのずからこの四徳があるのです。これを分ければ、仁の理はいよいよ明らかになります。四つに分けるのは、仁の理を明らかにするためです。四季を分ければ、一年の元気の運行が明白で知りやすいようなものです。

解説

孔子が仁を中心に教えた理由を、仁が四徳をすべる本だからだと述べ、礼は仁の節文、義は仁の断制、智は仁の分別だと言い換えています。程顥(明道)の「義礼智は皆仁なり」を引き、四季が春の生気の展開であるように四徳も仁の展開だと説明します。それでも四つに分けるのは仁を明らかにするためで、一年を四季に分けると理解しやすいのと同じだという結論は、教える工夫としても見事です。大きな理念を具体的な項目に分けて示す方法は、組織の行動指針づくりにも通じます。

この章句が説くこと

仁四徳程顥四季孔子

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