言志四録 / 言志後録 第三十五条 操舎の一刻、人禽判る
操則存。人也。舍則亡。禽獸也。操舍一刻。人禽判焉。可不戒乎。
新字:操則存。人也。舎則亡。禽獣也。操舎一刻。人禽判焉。可不戒乎。
書き下し
操れば則ち存す、人なり。舎つれば則ち亡ぶ、禽獣なり。操舎の一刻に、人禽判る。戒めざるべけんや。
現代語訳
心をしっかり保てば心は存する。それが人である。手放せば心は失われる。それは鳥獣である。保つか手放すかのその一瞬で、人と鳥獣とが分かれる。戒めないでいられようか。
解説
孟子告子上篇の「操れば則ち存し、舎つれば則ち亡ぶ」を引き、そこに「人なり」「禽獣なり」と一語ずつ加えて緊張感を高めた一条です。孟子は、人と禽獣の違いはごくわずかだと言いました。一斎はその「わずかな違い」を、心を保つか手放すかという一刻の選択に見ています。前の条の「克己は一呼吸の間に在り」と並べて読むと、一斎が道徳を立派な理念ではなく、瞬間ごとの心の置き所として捉えていたことがよくわかります。人間らしさは一度獲得すれば終わるものではなく、その都度選び直すものだということ。忙しさや苛立ちの中で自分を見失いかけたときに思い出したい言葉です。
この章句が説くこと
存心操存人と禽獣克己戒め
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