言志四録 / 言志録 第百十五条 孝名は不幸に由る
孝名之著。必由於貧窶艱難。疾病變故。則凡有孝名者。率不幸人也。今若徒厚賜於孝子而不及於親。則於爲孝子者。幾乎資其家之不幸以博賞微名也。其心恐有所不安。且凡稱人之善。當必本其父兄。如此則不獨勸其孝弟。而併以勸其慈友。可謂一擧而兩得之。
新字:孝名之著。必由於貧窶艱難。疾病変故。則凡有孝名者。率不幸人也。今若徒厚賜於孝子而不及於親。則於為孝子者。幾乎資其家之不幸以博賞微名也。其心恐有所不安。且凡称人之善。当必本其父兄。如此則不独勧其孝弟。而併以勧其慈友。可謂一挙而両得之。
書き下し
孝名の著るるは、必ず貧窶艱難、疾病変故に由る。則ち凡そ孝名有る者は、率ね不幸の人なり。今若し徒らに厚く孝子に賜ひて親に及ばざれば、則ち孝子為る者に於て、幾ど其の家の不幸に資りて以て賞と微名とを博するなり。其の心恐らくは安からざる所有らん。且つ凡そ人の善を称するには、当に必ず其の父兄に本づくべし。此くの如くんば則ち独り其の孝弟を勧むるのみならず、併せて以て其の慈友を勧む。一挙にして両得すと謂ふべし。
現代語訳
孝行の評判が世に現れるのは、必ず貧しさや苦難、病気や災難があってのことである。つまり孝行の名がある者は、たいてい不幸な人である。もしいま、ただ孝子にばかり手厚く褒美を与えて親には及ばないとすれば、孝子である者にとっては、ほとんど自分の家の不幸を元手にして褒美とわずかな名誉を得ることになってしまう。その心には、きっと落ち着かないものがあるだろう。そのうえ、およそ人の善行を称えるときは、必ずその父や兄に本づけて称えるべきである。そうすれば、子や弟の孝悌を励ますだけでなく、あわせて父兄の慈愛や友愛をも励ますことになる。一挙両得と言うべきである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
言志四録・言志録 第百十六条 舜の為に孝名を願はず古今舜を以て大孝の人と為す。舜は固より大孝なり。然れども余は舜の為に此の名を称するを願はず。舜果して孝子為らんか、其の此の名有るを聞かば、必将に竦然として惴懼し、翅だに膚に砭刺を受くるのみならざらん。蓋し舜の孝名は、瞽瞍の不慈に由りて顕る。瞽瞍をして慈父為らしめば、則ち舜の孝も亦泯然として迹無し。此れ固より其の願ふ所なり。乃ち然るを得ず。故に舜は只だ憂苦百端、罪を負ひ慝を引き、父の為に之を隠し、己寧ろ不孝の謗りを得るとも、親の不慈をして暴白せしめざらんことを思ふ。然り而して天下後世の論已に定まり、舜を推して以て古今第一等の孝子と為し、瞽瞍を目して以て古今第一等の不慈と為す。夫れ舜の孝名磨滅すべからざれば、則ち瞽瞍の不慈も亦磨滅すべからず。舜をして之を知らしめば、必ず痛苦に勝へざる者有らん。故に曰く、舜の為に此の名を称するを願はずと。
-
言志四録・言志録 第百十四条 孝子を賞するの道近代孝子を賞するに、金帛粟米を賜ひて以て之を旌す。頽俗を風励するの意に於ては則ち得たり。但だ其の之を賞するは、当に諸を孝子の心に原ぬべくして可なり。孝子の心は、親を愛するの外に他念無し。其の身の艱苦すら、且つ甘んじて之を受く。況んや敢へて名を求めんや。故に金帛粟米の賜は、宜しく其の親に厚くして其の子に薄くすべし。蓋し其の子に薄くするに非ず。其の親に厚くする所以の者は、即ち其の子に厚くする所以なり。親を賞するの辞に曰く、「庭訓素有り」と。子を賞するの辞に曰く、「能く庭訓に従ふ」と。此くの如くんば則ち孝子の素願足れり。
-
『春秋左氏伝』文公二年 卿を書せず、秦を尊ぶ冬、晉の先且居・宋の公子成・陳の轅選・鄭の公子歸生、秦を伐ち、汪及び彭衙を取りて還る。以って彭衙の役に報ずるなり。卿書せざるは、穆公の為の故なり。秦を尊ぶなり。之を崇德と謂ふ。襄仲齊に如きて幣を納る、禮なり。凡そ君位に即けば、舅甥を好くし、昏姻を脩め、元妃を娶りて以って粢盛(しせい)を奉ず、孝なり。孝は、禮の始めなり。
-
孟子・盡心章句上孟子曰く、「佚道を以て民を使えば、勞すと雖も怨みず。生道を以て民を殺せば、死すと雖も殺す者を怨みず。」
-
孟子・離婁章句上孟子曰く、「三代の天下を得るや仁を以てし、其の天下を失ふや不仁を以てす。国の廃興存亡する所以の者も亦た然り。天子不仁なれば、四海を保たず。諸侯不仁なれば、社稷を保たず。卿大夫不仁なれば、宗廟を保たず。士庶人不仁なれば、四体を保たず。今死亡を悪みて不仁を楽しむは、
-
孟子・梁惠王章句上孟子、梁の襄王に見ゆ。出でて人に語げて曰く、「之を望むに人君に似ず。之に就くに畏るる所を見ず。卒然として問うて曰く、『天下惡にか定まらん。』吾對えて曰く、『一に定まらん。』『孰か能く之を一にせん。』對えて曰く、『人を殺すを嗜まざる者、能く之を一にせん。』『孰か能く之に與せん。』對えて曰く、『天下與せざる莫きなり。王、夫の苗を知るか。七八月の間、旱すれば、則ち苗槁(かれる)れん。天、油然として雲を作し、沛然として雨を下さば、則ち苗浡然(ボツ・ゼン)として之に興きん。其れ是の如くなれば、孰か能く之を禦(とどめる)めん。今夫れ天下の人牧、未だ人を殺すことを嗜まざる者有らざるなり。如し人を殺すことを嗜まざる者有らば、則ち天下の民皆な領(くび)を引いて之を望まん。誠に是の如くなれば、民の之に歸すること、由ほ水の下きに就きて沛然たるがごとし。誰か能く之を禦めん。』」
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る