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福沢諭吉小品集 / 学問の独立・第17段

されば官吏が職を勤むるの労に酬いるには月給をもってし、数をもっていえば、百の労と百の俸給とまさしく相対して、その有様はほとんど売買の主義に異ならず。この点より論ずるときは、仕官もまた営業渡世の一種なれども、俸給の他に位階勲章をあたうるは、その労力の大小にかかわらず、あたかも日本国中の人物を排列してその段等を区別するものにして、官途にはおのずから抜群の人物多きがゆえに、位階勲章を得る者の数も官途に多きゆえんなり。政府の故意にして、ことさらに官途の人のみにこれをあたうるに非ず、官職の働はあたかも人物の高低をはかるの測量器なるがゆえに、ひとたび測量してこれを表するに位階勲章をもってして、その地位すでに定まるときは、本人の働は何様にてもこれに関することなく、地位は生涯その身につきて離れざるものなり。すなわち、辞職の官吏も、その位階勲章をば生涯失うことなきを見て、これを知るべし。 位階勲章はただちに帝室より出ずるものにして、政府吏人の毫もあずかり知るべきものに非ず。而してその帝室は日本国全体の帝室にして、政府一局部の帝室に非ず。帝室もとより政府に私せず。政府もとより帝室を私せず。無偏・無党の帝室は、帝国の全面を照らして、そのいずれに厚からず、またいずれに薄からず、帝室より降臨すれば、政治の社会も学問の社会も、宗旨も道徳も技芸も農商も、一切万事、要用ならざるものなし。いやしくもこれらの事項について抜群の人物あれば、すなわちこれを賞してその抜群なるを表す。位階勲章の精神は、けだしここにあって存するものならん。

書き下し

されば官吏が職を勤むるの労に酬いるには月給をもってし、数をもっていえば、百の労と百の俸給とまさしく相対して、その有様はほとんど売買の主義に異ならず。この点より論ずるときは、仕官もまた営業渡世の一種なれども、俸給の他に位階勲章をあたうるは、その労力の大小にかかわらず、あたかも日本国中の人物を排列してその段等を区別するものにして、官途にはおのずから抜群の人物多きがゆえに、位階勲章を得る者の数も官途に多きゆえんなり。政府の故意にして、ことさらに官途の人のみにこれをあたうるに非ず、官職の働はあたかも人物の高低をはかるの測量器なるがゆえに、ひとたび測量してこれを表するに位階勲章をもってして、その地位すでに定まるときは、本人の働は何様にてもこれに関することなく、地位は生涯その身につきて離れざるものなり。すなわち、辞職の官吏も、その位階勲章をば生涯失うことなきを見て、これを知るべし。 位階勲章はただちに帝室より出ずるものにして、政府吏人の毫もあずかり知るべきものに非ず。而してその帝室は日本国全体の帝室にして、政府一局部の帝室に非ず。帝室もとより政府に私せず。政府もとより帝室を私せず。無偏・無党の帝室は、帝国の全面を照らして、そのいずれに厚からず、またいずれに薄からず、帝室より降臨すれば、政治の社会も学問の社会も、宗旨も道徳も技芸も農商も、一切万事、要用ならざるものなし。いやしくもこれらの事項について抜群の人物あれば、すなわちこれを賞してその抜群なるを表す。位階勲章の精神は、けだしここにあって存するものならん。

現代語訳

ですから、官吏が職を勤める労に酬いるには月給をもってし、数字でいえば、百の労と百の俸給とがちょうど釣り合い、その様子はほとんど売買の原理と変わりません。この点から論じるなら、官に仕えることもまた営業や渡世の一種ですが、俸給のほかに位階や勲章を与えるのは、その労力の大小にかかわらず、あたかも日本国中の人物を並べてその段階を区別するものであり、官途にはおのずから抜群の人物が多いため、位階や勲章を得る者の数も官途に多いのです。これは政府が故意に、ことさら官途の人だけに与えているのではなく、官職の働きは人物の高低をはかる測量器のようなものですから、ひとたび測ってそれを位階や勲章で表彰し、その地位が定まったなら、本人の働きはどのようであっても、これに関係することなく、地位は生涯その身についてはなれないものです。つまり、辞職した官吏も、その位階や勲章を生涯失うことがないのを見て、これを知るべきです。 位階や勲章はじかに帝室から出るものであり、政府の役人が少しも関与すべきものではありません。そしてその帝室は日本国全体の帝室であり、政府の一局部の帝室ではありません。帝室はもとより政府に私せず、政府もまた帝室を私しません。偏りも党派もない帝室は、帝国の全体を照らして、そのいずれにも厚くなく、またいずれにも薄くなく、帝室から見渡せば、政治の社会も学問の社会も、宗旨も道徳も技芸も農業も商業も、一切万事、必要でないものはありません。いやしくもこれらの事項について抜群の人物があれば、これを賞してその抜群なることを表す。位階勲章の精神は、おそらくここにあるのでしょう。

解説

月給は労の対価で売買に近く、位階勲章は人物そのものの評価だと整理し、後者を政府でなく無偏無党の帝室が与えるべきだと結びます。ここでは帝室が中立の承認者という前提で書かれており、福沢の時代の構想です。報酬と承認の二つを別の源から与えるという発想は、現代の職場の評価制度や、顕彰のあり方を考える手がかりになります。福沢の議論は当時の制度を前提にしており、現代の私たちは距離を保って読むのがよいでしょう。

この章句が説くこと

月給と売買位階勲章人物の測量器無偏無党の帝室抜群の人物顕彰

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