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福翁自伝 / 老余の半生・独立の手本を示さんとす(2)

右の通り条目を並べて第一から第四まで述立てゝ見れば、私の政府に出ないのは初めからチャンと理窟を定めて箇様々々と自から自分を束縛してあるように見えるが、実はソレホド窮窟な訳けではない、ソレホド六かしい事でもない。唯今日これを筆記して人に分るようにしようとするには、話に順序がなくては叶わぬ。ソコで久しい前年から今日に至るまで、物に触れ事に当り、人と談論した事などを思出して、彼の時はアヽであった、この時は斯うであったと、記憶中に往来するものを取集めて見ると、前に記した通りになる。詰る所、私は政治の事を軽く見て熱心でないのが政界に近づかぬ原因でしょう。喩えば人の性質に下戸上戸があって、下戸は酒屋に入らず上戸は餅屋に近づかぬと云う位のもので、政府が酒屋なら私は政事の下戸でしょう。

書き下し

右の通り条目を並べて第一から第四まで述立てゝ見れば、私の政府に出ないのは初めからチャンと理窟を定めて箇様々々と自から自分を束縛してあるように見えるが、実はソレホド窮窟な訳けではない、ソレホド六かしい事でもない。唯今日これを筆記して人に分るようにしようとするには、話に順序がなくては叶わぬ。ソコで久しい前年から今日に至るまで、物に触れ事に当り、人と談論した事などを思出して、彼の時はアヽであった、この時は斯うであったと、記憶中に往来するものを取集めて見ると、前に記した通りになる。詰る所、私は政治の事を軽く見て熱心でないのが政界に近づかぬ原因でしょう。喩えば人の性質に下戸上戸があって、下戸は酒屋に入らず上戸は餅屋に近づかぬと云う位のもので、政府が酒屋なら私は政事の下戸でしょう。

現代語訳

右のとおり条目を並べて、第一から第四まで述べ立ててみると、私が政府に出ないのは、初めからちゃんと理屈を定めて、かようかようと自分で自分を束縛しているように見えますが、実はそれほど窮屈な話ではなく、それほど難しいことでもありません。ただ今日これを筆記して人に分かるようにしようとするには、話に順序がなくてはなりません。そこで、ずっと以前から今日に至るまで、物に触れ事に当たり、人と議論したことなどを思い出して、あのときはああだった、このときはこうだったと、記憶の中を行き来するものを取り集めてみると、前に記したとおりになります。結局のところ、私は政治のことを軽く見て熱心でないのが、政界に近づかない原因でしょう。たとえば人の性質に下戸と上戸があって、下戸は酒屋に入らず、上戸は餅屋に近づかないというくらいのもので、政府が酒屋なら、私は政治の下戸でしょう。

解説

四つの理由を並べ終えて、福沢は肩の力を抜きます。実は初めから理屈で自分を縛っていたわけではなく、話に順序をつけるために後から整理しただけだ、と言うのです。結局は政治への熱意が薄い、酒屋に入らない下戸のようなものだ、という落ちが福沢らしい。重い決断も、実は気質や好みの延長にあることが多い。自分の選択を理屈で飾りすぎず、体質として受け止める余裕は、キャリアに迷う人にとっても参考になります。理由は後からつくもので、根には性分がある、という示唆です。

この章句が説くこと

理屈の整理下戸政治への熱意性分記憶順序

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