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福翁自伝 / 老余の半生・問題更らに起る

ソコで私の身の進退に就ても更らに問題が起る。是れまで新政府に出身しなかったのは、政府が鎖国攘夷の主義であるから之を嫌うたのだ、仮令い開国と触出してもその内実は鎖攘の根性、信ずるに足らずと見縊たのである、然るに政府の方針がいよ/\開国文明と決して着々事実に顕わるゝに於ては、官界に力を尽して政府人と共に文明の国事を経営するこそ本意ではないかと世間の人の思うのは、一寸と尤ものように見えるが、この一段になってもマダ私に動く気がない。

書き下し

ソコで私の身の進退に就ても更らに問題が起る。是れまで新政府に出身しなかったのは、政府が鎖国攘夷の主義であるから之を嫌うたのだ、仮令い開国と触出してもその内実は鎖攘の根性、信ずるに足らずと見縊たのである、然るに政府の方針がいよ/\開国文明と決して着々事実に顕わるゝに於ては、官界に力を尽して政府人と共に文明の国事を経営するこそ本意ではないかと世間の人の思うのは、一寸と尤ものように見えるが、この一段になってもマダ私に動く気がない。

現代語訳

そこで私の身の処し方について、さらに問題が起こります。これまで新政府に仕えなかったのは、政府が鎖国攘夷の主義であるから嫌ったのだ、たとえ開国と触れ出しても、その内実は鎖国攘夷の根性で信じるに足りないと見くびったのだ、ところが政府の方針がいよいよ開国文明と決まって、着々と実際に表れてきた以上は、官界で力を尽くして政府の人たちと共に文明の国事を営むことこそ本意ではないか、と世間の人が思うのは、ちょっと尤もなように見えますが、この段階になってもまだ私には動く気がありません。

解説

ここは次の長い理由づけへの橋渡しの一段です。仕官しなかった理由が鎖国攘夷の政府への不信だったなら、政府が開国に転じた今、その理由は消えたはずだ、という世間の理屈を福沢自身が先回りして並べます。そのうえで、それでも動く気はないと言い切る。理由が消えても行動が変わらないなら、本当の理由は別にあるということです。自分の説明を一度疑ってみせる語り方に、福沢の誠実さが出ています。表向きの理由と本音のずれに気づく視点は、現代の転職や進路の説明にも使えます。

この章句が説くこと

身の処し方世間の理屈開国文明仕官本心

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