益軒家訓 / 幼児須教
一夫子孫は先祖の枝葉也。嫡庶の分を正しくし、疎遠といへども本族を尤厚く親むべし。貧賤なりとも捨つべからず。本族とは父族也。父族は遠しといへども我と同氣なり。三族の次第は、第一父族、第二母族、第三妻族也。故に母族は妻族より厚くし、父族は母族より厚くすべし。一々次第輕重ある事を知るべし。先祖より代々系譜を記しつたへ、その名と一生の履歷行實を、詳かに僞なく實錄すべし、私して稱譽を過すべからず。子孫名系譜を記し置きて、先祖よりの統紀を永く斷絕すべからず。功德ある人は、行狀を書かせ、墓表を立つべし。
新字:一夫子孫は先祖の枝葉也。嫡庶の分を正しくし、疎遠といへども本族を尤厚く親むべし。貧賤なりとも捨つべからず。本族とは父族也。父族は遠しといへども我と同気なり。三族の次第は、第一父族、第二母族、第三妻族也。故に母族は妻族より厚くし、父族は母族より厚くすべし。一々次第軽重ある事を知るべし。先祖より代々系譜を記しつたへ、その名と一生の履歴行実を、詳かに偽なく実録すべし、私して称誉を過すべからず。子孫名系譜を記し置きて、先祖よりの統紀を永く断絶すべからず。功徳ある人は、行状を書かせ、墓表を立つべし。
書き下し
一夫子孫は先祖の枝葉也。嫡庶の分を正しくし、疎遠といへども本族を尤厚く親むべし。貧賤なりとも捨つべからず。本族とは父族也。父族は遠しといへども我と同気なり。三族の次第は、第一父族、第二母族、第三妻族也。故に母族は妻族より厚くし、父族は母族より厚くすべし。一々次第軽重ある事を知るべし。先祖より代々系譜を記しつたへ、その名と一生の履歴行実を、詳かに偽なく実録すべし、私して称誉を過すべからず。子孫名系譜を記し置きて、先祖よりの統紀を永く断絶すべからず。功徳ある人は、行状を書かせ、墓表を立つべし。
現代語訳
そもそも子孫は先祖の枝葉です。嫡子と庶子の分をきちんと正し、疎遠であっても本族をもっとも厚く親しむべきです。貧しく身分が低くても見捨ててはなりません。本族とは父方の一族です。父方の一族は、遠くても自分と同じ気を受けています。三族の順序は、第一に父方、第二に母方、第三に妻方です。ですから母方は妻方より厚くし、父方は母方より厚くすべきです。一つ一つに順序と軽重があることを知るべきです。先祖から代々系譜を書き伝え、その名と一生の経歴や行いを、詳しく偽りなく記録すべきです。私情でほめすぎてはなりません。子孫も名を系譜に書き記して、先祖からの筋を長く断ってはなりません。功績や徳のある人については、行状を書かせ、墓碑を立てるべきです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『家道訓』巻之一・総論上一家の主となりては、三族をしたしむべし。三族は、第一に父族、第二に母族、第三に妻族なり。父方の一族は本族といふ。先祖より伝はれる血脈同じ。親疎の変りあれど、われと同気なるゆゑ、あつく親むべし。父族をあつくしたしむは、是亦先祖へつかふる道なり。次には、母方の一族は、是父族に次ぎてしたしむべし。次に、妻の一族は母の族に次げり。三族をしたしむ、其次第軽重かくの如し。是古の法なり。今の人は、妻族をもはら親みて、父族母族にうとし。軽重あることを知らず。父母への不孝なり。おろかなりと云ふべし。妻族をしたしむべからずと云ふにはあらず、軽重の次第あるべし。
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『益軒家訓』幼児須教一凡先祖父母に孝するの道は、奉養祭礼に限らず、聖学を知り、仁義の道を行ひ、其家業を勤めて、其名を揚げ、父母先祖の名をあらはすを以て、孝行の道とすべし。孝経の首章を、よく体認すべし。一先祖は子孫の根本なり。年季隔り遠しといへども、おもひ慕ひて尊敬すべし。時節の祭慎み厚うすべし。但国法に背くべからず。
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『益軒家訓』士業勿怠一右の三条は、我が愚蒙の言にあらず、古人の意も又斯くの如し。我が子孫たらん人、必厚く信じ、慎んでおもひ、常に心に保ちて守り行ふべし。違背すべからず。各其子のとし十五に及ばば、此法を相伝すべし。若幼にして父を喪ふものあらば、其兄及一族の内の長者、其孤を教へて、此法を伝ふべし。常にふかく秘して、他人に聞かしむべからず。各其子もまた其子に伝へて、万世に至る迄永く廃すべからず。若斯法に背く者あらば、大不幸におちて、我等泉下に朽ぬるとも、恨み悪むべき者なり。
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『家道訓』巻之三・総論下一人の子孫たる者は、其の家の先祖の家法をよく守りて失はざれば、たとひ其の子孫才力なしといへども、よく其の家をたもちて、いつまでも長久なり。其の故は、其の家をはじめて持ち立てたる先祖は、それほどの才智あり、其の上、わかき時より事に多くなれ、艱難をへて万事に熟し、世のありさま、人の心の善悪、人のうれへかなしみをよく知れり。此の故に、其人の立てたる家法は、必ず堅固にしてやぶれなし。子孫よく其法を守れば、やぶれなくわざはひなし。其の子孫、才力聰明すぐれたる人ありとも、はじめて家を持ち立てたる先祖には及びがたし。もし其子孫利口にして、先祖のさだめ置きたる法はむかしの事にて、今の世にあはざるとて、其の先祖をないがしろにして、其の法をやぶり新法をたつれば、必ず其の家亡ぶ。先祖の法を手本にして守り行はば、其の家いつまでも長久なるべし。
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『益軒家訓』幼児須教一幼き時の教は、事繁くすべからず。事繁くして煩労なれば、学問を疎んずるもの也。むづかしくして其気を屈すべからず。年数と性質と応ぜざる事を、強て責むべからず。年比に随ひ応じて教ふべし。又生附を見て、其過ぎたるを抑へ、不足を補ひて、中に叶はしむべし。性質の悪しき所を、常に誡め匡すべし。凡小児を育つるに、義方の訓をなすべし。姑息の愛をなすべからず。怠るをゆるす事なかれ。気随をゆるし、私欲を長ずべからず。
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『家道訓』巻之二・総論中一喪祭の礼は、をはりをつつしみ遠きをおふ道なれば、心を用ひてあつくすべし。おろそかにすべからず。然れども国法にそむくべからず。時宜にしたがふべし。国法と風俗にそむかざるかぎりは、其の心をつくすべし。先祖は子孫の根本なり。年数へだたり遠しといへども、思ひしたひて忘るべからず。時節の祭つつしみあつくし、本に報ずるの心おこたるべからず。木の根につちかひ養へば枝葉しげる、先祖にあつくすれば、子孫さかゆる理あり。しかれども、君子の先祖にあつきは、さかえを求むるためにあらず。
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