智囊 / 狡黠・老嫗騙局
子婦允其請,且多貨衣飾,盛妝而往,嫗子婦出迎,面黃如病者,日將晡,嫗子請二姆迎親,且曰:「鄉間風俗若是耳。」嫗佯曰:「汝妻雖病,今日稱姑矣,何以不自往迎,而煩二位乎?」其子曰:「規模不雅,無以取重。既來此,何惜一往?」嫗乃許之,於是嫗與病婦及二子婦俱下船去,更餘不返,嫗子假出覘,孫又繼之,皆去矣。及天明,遍覓無蹤,訪之房主,則云:「五六月前來租房住,不知其故。」翁父子悵悵而歸,親友來取衣飾,傾囊償之,而二婦家來覓女不得,訟之官,翁與子恨極,因自盡。
新字:子婦允其請,且多貨衣飾,盛妝而往,嫗子婦出迎,面黄如病者,日将晡,嫗子請二姆迎親,且曰:「郷間風俗若是耳。」嫗佯曰:「汝妻雖病,今日称姑矣,何以不自往迎,而煩二位乎?」其子曰:「規模不雅,無以取重。既来此,何惜一往?」嫗乃許之,於是嫗与病婦及二子婦倶下船去,更余不返,嫗子仮出覘,孫又継之,皆去矣。及天明,遍覓無蹤,訪之房主,則云:「五六月前来租房住,不知其故。」翁父子悵悵而帰,親友来取衣飾,傾嚢償之,而二婦家来覓女不得,訟之官,翁与子恨極,因自尽。
書き下し
子婦、其の請を允し、且つ衣飾を多く貨して、盛妝して往く。嫗の子婦出迎す。面黄にして病者の如し。日の晡なるに、嫗の子、二姆に迎親を請い、且つ曰く、「郷間の風俗は是くの若きのみ」と。嫗、佯りて曰く、「汝の妻、病むと雖も、今日は姑と称さる。何ぞ自ら往きて迎えずして、二位を煩わすや」と。其の子曰く、「規模雅ならず。以て重きを取る無し。既に来たれり、何ぞ一往を惜しまん」と。嫗乃ち之を許す。是に於いて嫗と病婦と及び二子婦、俱に船に下りて去る。更余にして返らず。嫗の子、假りに出でて覘うとして、孫又之に継ぎ、皆去れり。天明に及んで、遍く覓むれども蹤無し。之を房主に訪うに、則ち云う、「五六月前に来たりて房を租りて住めり。其の故を知らず」と。翁父子、悵悵として帰る。親友来たりて衣飾を取る。嚢を傾けて之を償う。而して二婦の家、女を覓むるも得ず、之を官に訟う。翁と子、恨み極まり、因りて自尽す。
現代語訳
嫁たちはその誘いを承知し、衣服や装身具をたくさん借りて、盛装して出かけた。老婆の嫁が出迎えた。顔色が黄ばんで、病人のようだった。日が傾くころ、老婆の息子が二人の嫁に、花嫁迎えに行ってほしいと頼み、さらに言った。「田舎の風習はこうなのです」。老婆はわざと言った。「お前の妻は、病気ではあっても、今日は姑と呼ばれる身だ。どうして自分で迎えに行かず、お二方を煩わせるのか」。息子は言った。「体裁がよくなく、重みが出ません。せっかくおいでになったのだから、一緒に行ってくださるのは惜しまれないでしょう」。老婆はそこで承知した。こうして老婆と病気の嫁と、二人の嫁は、そろって船に乗って去った。夜更けになっても戻らない。老婆の息子は、ちょっと見てくると言って出て行き、孫もそれに続き、みな去った。夜が明けて、あちこち探したが跡形もない。家主に尋ねると、「五、六か月前に来て部屋を借りて住んでいたが、事情は知らない」と言う。舅と息子たちは落胆して帰った。親戚や友人が貸した衣服や装身具を取りに来た。財布をはたいて弁償した。そして嫁たちの実家は、娘を探しても見つからず、役所に訴えた。舅と息子たちは、恨みと悔しさの極まりに、自ら命を絶った。
解説
この章句が説くこと
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『智囊』狡黠・老嫗騙局万暦戊子、杭郡北門の外に居民有り。年は六十に望み、妻を喪う。二子の婦は皆美にして、翁に事えて孝敬なり。一日、忽ち老嫗の門に立つ有り。晨より午に至るまで、期待して至らざる者有るが若し。翁、出入すること数次、其の久しく立つを憐れみ、二子の婦に命じて其の故を詢わしむ。嫗曰く、「吾が子は忤逆す。将に之を官に訴えんとす。姐の子と期して同に往かんとするに、久しく候つも来たらず。腹も且に枵ならんとす」と。子婦これを憐れみて飯わしむ。言論甚だ相愜い、暮れに至るも期する者来たらず。因りて之を留めて宿せしむ。一たび住すること旬日。凡そ子婦の操作、悉く其の労に代わる。而して女工は尤も精なり。子婦は唯だ其の去らんことを恐れ、嫗は夫無くして子は不孝なり、煢煢として帰する無しと謂い、力めて翁に勧めて之を娶らしむ。翁乃ち与に合す。又旬余にして、嫗の子と姐の子と始めて尋ね覓めて来たる。拝跪して罪を告ぐ。嫗は猶お厲しく詈りて已まず。翁これを解き、乃ち留めて飲ましむ。其の人即ち翁を拝して繼父と為し、母の托する所有るを喜ぶ。此の如く往来すること三月。一日、嫗の孫来たりて、翁の一門を請う。云う、已に聘を行えりと。嫗曰く、「子婦の来たること何ぞ容易ならん。吾は翁及び両郎君と来たるのみ」と。往けば則ち酔いて返る。又月余にして、其の孫復た来たりて請う。云う、「某日、畢姻す。必ず二姆の同に降らんことを求む」と。
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『智囊』狡黠・騙驢婦三婦人の驢を雇いて騎し行く有り。一男子鞭を執りて之に随う。忽ち少婦、驢を下りて便地を択ばんと欲し、二婦を呼びて曰く、「緩やかに行きて我を俟て」と。因りて男子を倩いて之を佐けて下らしめ、即ち与に調謔し、相い悦ぶ者の若し。已に驢に乗り、曰く、「我は心痛す。急ぎ行くこと能わず」と。男子既に少婦を強いることを欲せず、二婦を追うも又得べからず。乃ち道傍に憩う。而して少婦の反って走ること久しきを知らず。是の日、三驢皆失う。
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『智囊』雄略・邑宰妾守る者は金を分かつを貪り、忍ぶ能わず、足は覚えず前む。宰は間を以て潜かに逸す。衆は金を懐にして既に饜き、出でて宰を失うを視、懼れて走らんと欲す。妾は弱き者一人を択びて力めて之を持し、大いに呼ぶ、「攫金の賊在り」と。衆は奮拳して斉しく毆り、歯甲俱に集う。妾は且に死せんとするも、終に釈かず、声愈いよ厲し。外の人を動かし、外の人入り、衆は竄り、其の一を獲たり。並びに妾の持する所の者と両人を、巡城の潘御史の中に送る。妾は群凶の淫貪の状を訴え、兼ねて失う所の鬻産の銀数を具す。此の両人は諱む能わず、尽く其の党の姓名を供す。頃之くして、悉く擒えて至り、銀は猶お懐に在り。而して犯官の逸出するを以て解と為す。御史は詔獄を視しむるに、則ち宰焉に在り、衆は語塞がり、乃ち罪を不肖の姪に委ぬ。御史は姪を収め、尽く箠の下に斃す。妾は故の金を取りて帰り、数を籍して宰に報じ、病むこと数日にして、乃ち死す。〔評〕獄中の囚の私に出入するは、法に非ざるなり。詔獄甚だし。方に群邏の押し至るや、宰を以て奇貨と為さざらんや。膽薄と言いて其の志を堅くし、金多しと言いて其の欲に中て、謔を忍びて以て之を堅くし、空橐を以て之を餌す。守者を怠らせて宰を逸すは、固より已に吾が算の中に在り。其の不意に出で、一弱を持して以て衆強を羈す。仮令い身は老拳の下に斃るるとも、罪人其れ免れんや。群凶先に我が死するに至りても、目は瞑すべきなり。婦の智は言うを必とせず。独り其の猝にして乱れず、死して怵れず、従容として功に就くは、丈夫の智の逮ばざる所有り。惜しむらくは伝うる者其の名を逸す。然りと雖も、千秋の下、一邑宰の妾有りて浣紗女、鋭司徒の妻、車中の女子の儔に在るを知らば、斯れ友無しと為さざるなり。
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『智囊』狡黠・竊磬賊・假跛書生・假斷腳偷郷の一老嫗、向に経を誦す。古銅の磬有り。一賊、石塊を以て包を作り、之を負いて媼の門外に至る。人問う、「何物ぞ」と。曰く、「銅磬なり。将に鬻がんとするのみ」と。門に入りて人無きを見て、石を地に棄て、磬を負いて門内に反向して曰く、「磬を買わんと欲するか」と。曰く、「家に自ずから有り」と。賊、磬を包み、復た負いて出づ。内外皆覚らず。閶門に匠有り、肆に金を鑿つ。忽ち一士人、巾服甚だ偉にして、跛曳して来たり、自ら語りて曰く、「暴令は小過を以て我を毒撻す。我必ず之に報いん」と。因りて袖より一大膏薬を出し、炉次に薫じ、将に以て瘡を治せんとする者の若し。其の熔化するを俟ち、急ぎ匠の面孔に糊す。匠、熱を畏れ、手を援きて之を取る。其の人、即ち金を持ちて奔り去る。又一家、門に米袋を集む。忽ち躄者有り、腹を垂るること甚だ大にして、其の足を盤旋して来たり、米袋の上に坐す。衆の共に観るも、何に由るかを知らず。米一袋を胯下に匿し、復た盤旋して去る。後に米を失い、始めて之を知る。蓋し其の腹は襯塞して成り、而して躄も亦た偽りなり。
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