智囊 / 辯才・楊善
而中朝諸臣,一則恐受虜之欺,二則恐拂嗣立者之意,相顧推諉而莫敢任。善義激於心,慨然請往,不費尺帛半鏹,單辭完璧,此又豈廝養卒敢望哉?土木是一時誤陷,與晉、宋之削弱不同;而也先好名,又非胡劉、女直殘暴無忌之比。其強勢亦遠不逮,所以楊善之言易入。使在晉、宋往時,雖百楊善無所置喙矣。然爾時印累累,綬若若,而慨然請往,獨一都御史也!即無善之口舌,獨無善之心肝乎?
新字:而中朝諸臣,一則恐受虜之欺,二則恐払嗣立者之意,相顧推諉而莫敢任。善義激於心,慨然請往,不費尺帛半鏹,単辞完璧,此又豈廝養卒敢望哉?土木是一時誤陥,与晋、宋之削弱不同;而也先好名,又非胡劉、女直残暴無忌之比。其強勢亦遠不逮,所以楊善之言易入。使在晋、宋往時,雖百楊善無所置喙矣。然爾時印累累,綬若若,而慨然請往,独一都御史也!即無善之口舌,独無善之心肝乎?
書き下し
而して中朝の諸臣は、一は虜の欺きを受けんことを恐れ、二は嗣立者の意に払わんことを恐れ、相い顧みて推諉して敢えて任ずる莫し。善、義、心に激し、慨然として往かんことを請う。尺帛半鏹をも費やさず、単辞にして完璧なり。此れ又豈に廝養卒の敢えて望む所ならんや。土木は是れ一時の誤陥にして、晋・宋の削弱するとは同じからず。而して也先の名を好むは、又胡・劉・女直の残暴無忌なるの比に非ず。其の強勢も亦た遠く逮ばず。所以に楊善の言入り易し。晋・宋の往時に在らしめば、百の楊善と雖も、喙を置く所無からん。然れども爾の時、印累累、綬若若たるに、慨然として往かんことを請うは、独り一都御史のみ。即し善の口舌無くも、独り善の心肝無からんや。
現代語訳
そして朝廷の諸臣は、一つには虜に欺かれるのを恐れ、二つには新しく即位した者の意に逆らうのを恐れて、互いに顔を見合わせて責任を押しつけ合い、誰も引き受けようとしませんでした。楊善は義の心が激して、意気込んで行くことを願い出ました。一尺の布も半貫の銭も費やさず、ただ一言の弁舌で、完全な形で上皇を取り戻しました。これは廝養卒がとても望めるところではありません。土木の変は一時の過ちによる災難であり、晋や宋が衰えたのとは違います。また也先が名を好むのは、胡や劉、女直のような残虐で無法な者とは比べものになりません。その強勢も遠く及びません。だから楊善の言葉が入りやすかったのです。晋や宋の往時であったなら、百人の楊善がいても口をはさむ余地はなかったでしょう。しかしそのとき、印が連なり綬が垂れるほど多くの高官がいたのに、慨然として行くことを願い出たのは、ただ一人の都御史だけでした。たとえ楊善の弁舌がなかったとしても、楊善の心根がなかったでしょうか。
解説
この章句が説くこと
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