智囊 / 得情・某巡官
有富民張老者,妻生一女,無子,贅某甲於家。久之,妾生子,名一飛,育四歲而張老卒,張病時謂婿曰:「妾子不足任,吾財當畀汝夫婦,爾但養彼母子,不死溝壑,即汝陰德矣。」於是出券書云:「張一非吾子也,家財盡與吾婿,外人不得爭奪。」婿乃據有張業不疑。後妾子壯,告官求分,婿以券呈官,遂置不問。他日奉使者至,妾子復訴,婿仍前赴證,奉使者乃更其句讀曰:「張一非,吾子也,家財盡與,吾婿外人,不得爭奪。」曰:「爾父翁明謂『吾婿外人』,爾尚敢有其業耶?詭書『飛』作『非』者,慮彼幼為爾害耳。」於是斷給妾子,人稱快焉。
新字:有富民張老者,妻生一女,無子,贅某甲於家。久之,妾生子,名一飛,育四歳而張老卒,張病時謂婿曰:「妾子不足任,吾財当畀汝夫婦,爾但養彼母子,不死溝壑,即汝陰徳矣。」於是出券書云:「張一非吾子也,家財尽与吾婿,外人不得争奪。」婿乃拠有張業不疑。後妾子壮,告官求分,婿以券呈官,遂置不問。他日奉使者至,妾子復訴,婿仍前赴証,奉使者乃更其句読曰:「張一非,吾子也,家財尽与,吾婿外人,不得争奪。」曰:「爾父翁明謂『吾婿外人』,爾尚敢有其業耶?詭書『飛』作『非』者,慮彼幼為爾害耳。」於是断給妾子,人称快焉。
書き下し
富民の張老なる者有り。妻は一女を生み、子無し。某甲を家に贅す。久しくして、妾に子を生み、一飛と名づく。育てて四歳にして張老卒す。張の病む時、婿に謂いて曰く、「妾の子は任ずるに足らず。吾が財は当に汝が夫婦に畀うべし。爾は但だ彼の母子を養い、溝壑に死せざらしめば、即ち汝の陰徳なり」と。是に於いて券を出して書す、「張一非は吾が子に非ず。家財は尽く吾が婿に与う。外人は争奪するを得ず」と。婿は乃ち張の業を据有して疑わず。後に妾の子壮にして、官に告げて分かつことを求む。婿は券を以て官に呈す。遂に置いて問わず。他日、奉使者至り、妾の子復た訴う。婿は仍お前の如く赴き証す。奉使者は乃ち其の句読を更めて曰く、「張一非、吾が子なり。家財は尽く与う、吾が婿は外人、争奪するを得ず」と。曰く、「爾の父翁は明らかに『吾が婿は外人』と謂えり。爾は尚お敢えて其の業を有せんや。詭りて『飛』を『非』と書けるは、彼の幼きが爾の害を為すを慮ればなり」と。是に於いて断じて妾の子に給う。人は快と称す。
現代語訳
張老という富豪がいた。妻は娘を一人産んだが、息子はいなかった。ある男を婿養子として家に迎えた。長い年月がたち、妾が男の子を産み、一飛と名づけた。四歳まで育てて、張老は亡くなった。張老が病んでいたとき、婿に言った。「妾の子は頼りにならない。私の財産はあなたたち夫婦に渡そう。あなたはただその母子を養い、野垂れ死にさせなければ、それがあなたの陰徳になる」と。そこで証書を書いた。「張一非は私の子ではない。家財はすべて私の婿に与える。外の者は争って奪ってはならない」と。婿は張家の財産を疑いなく自分のものにした。後に、妾の子が成長して、役所に分け前を求めた。婿は証書を役所に提出した。役所はそのまま取り合わなかった。後日、使者が来て、妾の子がまた訴えた。婿は前と同じように出向いて証した。使者はその句読点を改めて読んだ。「張一非、吾が子なり。家財は尽く与う、吾が婿は外人、争奪するを得ず」と。そして言った。「お前の父は、はっきりと『私の婿は外の者』と言っている。お前はなおその財産を持つ気か。偽って『飛』を『非』と書いたのは、幼い子がお前に害されるのを心配したからだ」と。そこで裁断して、妾の子に財産を与えた。人々は痛快だと称えた。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『智囊』得情・何武・張詠漢の沛郡に富翁有り。家資は二十余万、子の才は年三歳にして、其の母を失う。女有りて人に適ぐも、甚だ賢からず。翁の病困するや、遺書を為り、悉く財を以て女に属し、但だ一剣を遺して云う、「児の年十五にして、以て付し還せ」と。其の後、又た剣を与えず。児は郡に詣りて陳訴す。太守何武、女及び婿を録し、其の手書を省み、顧みて掾吏に謂いて曰く、「此の人は女の性は強梁にして、婿は復た貪鄙なるに因り、其の児を残害せんことを畏る。又た小児の此の財を得るも全く護る能わざるを計り、故に且く女に与え、実は之を守るのみ。夫れ剣とは、決断する所以なり。年十五と限るは、其の子の智力の以て自ら居るに足るを度り、又た此の女の必ず復た其の剣を還さざるを度り、当に州県に関して申転を得べしとなり。其の思慮の深遠なること是の如きかな」と。悉く奪いて財を児に与う。曰く、「敝女悪婿は、温飽十年、亦た已に幸いなり」と。論者大いに服す。張詠、杭州に知たり。杭に富民有り、病みて将に死せんとす。其の子は三歳。富民は其の婿に命じて家貲を主らしめ、而して遺すに書を以て曰く、「他日財を分かつに、十の三を以て子に、七を婿に与えよ」と。其の後、子は之を官に訟う。婿は父の書を持ちて府に詣る。詠、之を閲し、酒を以て地に酬いて曰く、「汝の婦翁は智人なり。時に子幼し、故に子を以て汝に属す。然らずんば、子は汝の手に死せん」と。乃ち命じて三分して其の財を婿に与え、子には七を与う。
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『宋名臣言行録』前集巻三・張詠公杭に在り。富民の病みて將に死せんとする有り。子方に三歳なり。乃ち其の婿に命じて其の貲を主らしめ、婿に與うるに遺書を以てして曰く、他日、財を分かたんと欲せば、即ち十の三を以て子に與え、七を婿に與えよと。子の時に長立し、果たして財を以て訟えを為す。婿其の書を持して府に詣り、元約の如くせんことを請う。公之を閲し、酒を以て地に酹ぎて曰く、汝の婦翁は智人なり。時に子幼きを以ての故に、此を以て汝に屬す。然らずんば、子は汝の手に死せんと。乃ち命じて其の財、三を以て婿に與え、子には七を與う。皆な泣謝して去る。公の明斷に服す。
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『智囊』得情・程顥富民張氏の子有り。其の父死し、老父有りて曰く、「我は汝の父なり。来たりて汝の居に就かん」と。張驚き疑い、県に弁を請う。程顥、之を詰す。老父、懐を探りて策を取りて以て進む。記に曰く、「某年某月日、某人、子を三翁の家に抱く」と。顥、張及び其の父の年の幾何なるかを問い、老父に謂いて曰く、「是の子の生まるるとき、其の父は年才かに四十なり。已に之を三翁と謂わんや」と。老父驚き服す。
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『智囊』剖疑・張晉大司農張晋、刑部たりし時、民に父と居を異にして富む者有り。父、夜に垣を穿ち、将に入りて貲を取らんとす。子、以て盗と為し、目に其の入るを間いて撲殺す。燭を取りて屍を視るに、則ち父なり。吏、議するに、子の父を殺すは宜しく縦すべからず。而るに実は盗を拒ぎ、其の父たるを知らず。又た宜しく誅すべからず。久しく決する能わず。晋、筆を奮いて曰く、「賊を殺すは恕すべし。不孝は当に誅すべし。子に余財有りて、父をして貧しくして盗を為さしむ。不孝、明らかなり」と。竟に之を殺す。
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『智囊』得情・於文傅於文傅、烏程県尹に遷る。富民張某の妻王、子無し。張、一妾を外に納れ、子を生むも未だ日ならずして卒す。王、妾を誘うに児を以て来たらしめ、尋いで妾を逐い、児を殺して之を焼く。文傅聞きて其の事を発し、死児の余骨を得たり。王、厚く妾の父母に賂い、隣家の児を買いて妾の生む所の児と為し、初めより死せずと言う。文傅、妾をして児を抱きて之に乳せしむるに、児啼きて受けず。妾の父母実を吐き、乃ち隣婦を呼びて至らしむるに、児之を見て、躍りて其の懐に入り、之に乳すれば即ち飲む。王遂に辜に伏す。
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『智囊』得情・張齊賢戚里に財を分かつこと均しからずして、更ごも相訟う者有り。斉賢曰く、「是れ台府の能く決する所に非ず。臣、請う、自ら之を治めん」と。斉賢は相府に坐し、訟者を召して問いて曰く、「汝は彼が財を分かつこと多く、汝の分かつこと少なしと謂うに非ずや」と。曰く、「然り」と。款を具え、乃ち両吏を召し、甲の家を乙の舎に入れ、乙の家を甲の舎に入れしむ。貨財は動かすを得ず、分書は則ち交易す。明日奏聞す。上曰く、「朕は固より君に非ざれば定むる能わざるを知れり」と。
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