智囊 / 億中・希卑・范蠡
生知其意,令自入室取金去。莊生羞為孺子所賣,乃入見楚王曰:「王欲以修德禳星,乃道路喧傳陶之富人朱公子殺人囚楚,其家多持金錢賂王左右,故王赦,非能恤楚國之眾也,特以朱公子故。」王大怒,令論殺朱公子,明日下赦令。於是朱公長男竟持弟喪歸,其母及邑人盡哀之,朱公獨笑曰:「吾固知必殺其弟也,彼非不愛弟,顧少與我俱,見苦為生難,故重棄財。至如少弟者,生而見我富,乘堅策肥,豈知財所從來哉!吾遣少子,獨為其能棄財也,而長者不能,卒以殺其弟。」--事之理也,無足怪者,吾日夜固以望其喪之來也!〔馮述評〕朱公既有灼見,不宜移於婦言,所以改遣者,懼殺長子故也。「聽其所為,勿與爭事。」已明明道破,長子自不奉教耳。莊生縱橫之才不下朱公,生人殺人,在其鼓掌。然寧負好友,而必欲伸氣於孺子,何德宇之不寬也?噫,其斯以為縱橫之才也與!
新字:生知其意,令自入室取金去。荘生羞為孺子所売,乃入見楚王曰:「王欲以修徳禳星,乃道路喧伝陶之富人朱公子殺人囚楚,其家多持金銭賂王左右,故王赦,非能恤楚国之衆也,特以朱公子故。」王大怒,令論殺朱公子,明日下赦令。於是朱公長男竟持弟喪帰,其母及邑人尽哀之,朱公独笑曰:「吾固知必殺其弟也,彼非不愛弟,顧少与我倶,見苦為生難,故重棄財。至如少弟者,生而見我富,乗堅策肥,豈知財所従来哉!吾遣少子,独為其能棄財也,而長者不能,卒以殺其弟。」--事之理也,無足怪者,吾日夜固以望其喪之来也!〔馮述評〕朱公既有灼見,不宜移於婦言,所以改遣者,懼殺長子故也。「聴其所為,勿与争事。」已明明道破,長子自不奉教耳。荘生縦横之才不下朱公,生人殺人,在其鼓掌。然寧負好友,而必欲伸気於孺子,何徳宇之不寛也?噫,其斯以為縦横之才也与!
書き下し
生、其の意を知り、自ら室に入りて金を取りて去らしむ。荘生、孺子に売らるるを羞じ、乃ち入りて楚王に見えて曰く、「王、徳を修めて以て星を禳わんと欲す。乃ち道路喧伝す、陶の富人朱公の子、人を殺して楚に囚われ、其の家は多く金銭を持して王の左右に賂う。故に王赦す。能く楚国の衆を恤うに非ざるなり。特だ朱公の子の故を以てなり。」王大いに怒り、論じて朱公の子を殺さしめ、明日に赦令を下す。是に於いて朱公の長男は竟に弟の喪を持して帰る。其の母及び邑人は尽く哀しむ。朱公独り笑いて曰く、「吾固より必ず其の弟を殺すを知れり。彼は弟を愛さざるに非ず。顧うに少くして我と俱にし、苦しみを見て生を為す難きを知る。故に財を棄つるを重んず。少弟の如きは、生まれて我が富を見、堅きに乗り肥えたるに策つ。豈に財の従りて来たる所を知らんや。吾が少子を遣わさんとせしは、独だ其の能く財を棄つるが為なり。而るに長者は能わず。卒に以て其の弟を殺す。事の理なり。怪しむに足る者無し。吾は日夜固より其の喪の来たるを以て望めり。」〔馮述評〕朱公、既に灼見有り。宜しく婦言に移るべからず。改めて遣わす所以は、長子を殺すを懼るるが故なり。「其の為す所に聴き、争事する勿れ」と、已に明明に道破す。長子自ら教えを奉ぜざるのみ。荘生の縦横の才は朱公に下らず。人を生かし人を殺すは、其の鼓掌に在り。然れども寧ろ好友に負くとも、必ず気を孺子に伸ばさんと欲す。何ぞ徳宇の寛からざるや。噫、其れ斯れを以て縦横の才と為すか。
現代語訳
荘生はその意図を知り、「自分で部屋に入って金を持って去りなさい」と命じた。荘生は、若造にだまされたことを恥じ、そこで入って楚王にまみえて言った。「王は徳を修めて星の災いを祓おうとしておられます。ところが道ばたでは、陶の富豪の朱公の子が人を殺して楚に投獄され、その家が多くの金銭を持って王の側近に賄賂を贈ったという噂が広まっています。それで王は赦されるのだ、楚の民を憐れんでのことではなく、ただ朱公の子のためだ、というのです。」王は大いに怒り、朱公の子を処刑させ、その翌日に大赦の命令を下した。こうして朱公の長男は結局、弟の遺体を持って帰った。母と村人はみな嘆き悲しんだ。朱公だけが笑って言った。「私はもとから、長男が必ず弟を殺すと分かっていた。長男は弟を愛していないのではない。幼い頃から私と一緒に暮らし、苦労を見て生きる難しさを知っているので、財産を捨てることを重く見る。末の子は、生まれたときから私の富を見て、立派な車に乗り肥えた馬に鞭打って育った。どうして財産がどこから来るかを知ろうか。私が末の子を遣わそうとしたのは、ただ彼なら財を惜しまず使えるからだ。それなのに長男はそれができず、結局弟を殺した。物事の道理であり、怪しむに足りない。私は日夜、この死の知らせが来るのを待っていたのだ。」〔馮夢龍の評〕朱公にはすでにはっきりした見通しがあった。妻の言葉に動かされて考えを移すべきではなかった。遣わす人を改めたのは、長男を自殺させることを恐れたからである。「彼のするままにさせ、事を争うな」と、すでにはっきり言い切っている。長男が自分から教えに従わなかっただけだ。荘生の縦横の才は朱公にひけを取らず、人を生かすも殺すも手の内にある。しかし旧友に背いてでも、若造に対して意地を通そうとしたのは、なんと度量の狭いことか。ああ、これが縦横家の才というものなのか。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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論語・雍也篇宰我問いて曰く、「仁者は之に告げて『井に仁有り』と曰うと雖も、其れ之に従わんか。」子曰く、「何為れぞ其れ然らんや。君子は逝かしむ可きも、陥る可からず。欺く可きも、罔う可からず。」
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言志四録・言志耋録 第二十五条 持志の工夫は太だ難し持志の工夫は太だ難し。吾往々事の意に忤ふに遭へば、輙ち暴怒を免れず。是れ志を持する能はざるの病なり。自ら恥ぢ自ら怯る。書して以て警と為す。
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『智囊』億中・希卑・范蠡朱公は陶に居り、少子を生む。少子壮にして、朱公の中男、人を殺し、楚に囚わる。朱公曰く、「人を殺して死するは、職なり。然れども吾聞く、千金の子は市に死せずと。」乃ち千金の装を治め、将に其の少子を遣わして往きて之を視しめんとす。長男固く行かんと請うも、聴かず。公の長子を遣わさずして少弟を遣わすを以て、「是れ吾の不肖なり」と、自殺せんと欲す。其の母、強いて為に言う。公已むを得ず、長子を遣わす。書を為りて故より善き所の荘生に遣わし、因りて長子に語りて曰く、「至らば、則ち千金を荘生の所に進め、其の為す所に聴き、慎みて与に事を争う無かれ。」長男行き、父の言の如くす。荘生曰く、「疾く去りて留まる毋かれ。即し弟出づるも、其の然る所以を問う勿れ。」長男は陽り去るも、荘生を過ぎらずして、私かに楚の貴人の所に留まる。荘生は故より貧なれども、廉直を以て重んぜられ、楚王以下皆な之に師事す。朱公の金を進むるも、受くる意有らざるなり。事成りて復た之を帰して以て信と為さんと欲するのみ。而るに朱公の長男は其の意を解せず、殊に短長無しと以為う。荘生、間を以て入りて楚王に見え、言う、「某星某宿、楚に利あらず。独り徳を為せば之を除くべし。」王は素より生を信ず。即ち使いして三銭の府を封ぜしむ。貴人驚きて公の長男に告げて曰く、「王且に赦さんとす。赦す毎に、必ず三銭の府を封ず。」長男、以為らく赦なれば、弟は固より当に出づべし。千金は虚しく棄てらると。乃ち復た荘生に見ゆ。生驚きて曰く、「若、去らざるか。」長男曰く、「固なり。弟今且に赦されんとす。故に辞し去らんとす。」
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史記 越王句践世家楚に至る。荘生の家は郭を負ひ、藜藋を披きて門に到る。居甚だ貧なり。然れども長男書を発して千金を進むること、其の父の言の如くす。荘生曰く、「疾く去るべし。慎みて留まる毋かれ。即し弟出づるとも、然る所以を問ふ勿かれ」と。長男既に去り、荘生に過らずして私かに留まり、其の私に齎せるを以て楚国の貴人の事を用ふる者に献遺す。荘生は窮閻に居ると雖も、然れども廉直を以て国に聞え、楚王より以下皆之を師尊す。朱公の金を進むるに及びて、受くるに意有るに非ず、以て事を成して後に復た之を帰して以て信と為さんと欲するのみ。故に金至るや、其の婦に謂ひて曰く、「此れ朱公の金なり。如し病みて宿めて誡めざること有らば、後に復た帰せ。動かす勿かれ」と。而るに朱公の長男其の意を知らず、以為へらく殊に短長無しと。荘生閒時に入りて楚王に見え、「某の星某に宿る、此れ則ち楚に害あり」と言ふ。楚王素より荘生を信じ、曰く、「今為すこと奈何」と。荘生曰く、「独り徳を以てするのみ以て之を除くべし」と。楚王曰く、「生休め。寡人将に之を行はんとす」と。王乃ち使者をして三銭の府を封ぜしむ。楚の貴人驚きて朱公の長男に告げて曰く、「王且に赦さんとす」と。曰く、「何を以てするや」と。曰く、「王の且に赦さんとする毎に、常に三銭の府を封ず。昨暮王使をして之を封ぜしむ」と。朱公の長男以為へらく、赦さば、弟固より当に出づべし、千金を重んじて虚しく荘生に棄て、為す所無しと。乃ち復た荘生に見ゆ。荘生驚きて曰く、「若去らざるか」と。長男曰く、「固より未だしなり。初め弟の事を為す。弟今議して自ら赦さる。故に生に辞して去らん」と。荘生其の意の復た其の金を得んと欲するを知り、曰く、「若自ら室に入りて金を取れ」と。長男即ち自ら室に入りて金を取りて持ち去り、独り自ら歓幸す。荘生、児子の売る所と為るを羞ぢ、乃ち入りて楚王に見えて曰く、「臣前に某星の事を言ふ。王言ふ、徳を修めて以て之に報いんと欲すと。
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史記 越王句践世家今臣出づるに、道路皆言ふ、陶の富人朱公の子人を殺して楚に囚はる、其の家多く金銭を持ちて王の左右に賂ふ、故に王は能く楚国を恤みて赦すに非ず、乃ち朱公の子の故を以てなりと」と。楚王大いに怒りて曰く、「寡人不徳なりと雖も、奈何ぞ朱公の子の故を以て恵みを施さんや」と。朱公の子を論殺せしめ、明日遂に赦令を下す。
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史記 越王句践世家朱公の長男竟に其の弟の喪を持ちて帰る。至るや、其の母及び邑人尽く之を哀しむ。唯だ朱公独り笑ひて曰く、「吾固より必ず其の弟を殺さんことを知れり。彼其の弟を愛せざるに非ず、顧だ忍ぶ能はざる所の者有るなり。是れ少くして我と倶にし、苦を見、生を為すの難きを知る。故に財を棄つるを重んず。少弟の如き者に至りては、生まれて我が富めるを見、堅に乗り良を駆りて狡兎を逐ふ。豈に財の従りて来る所を知らんや、
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