智囊 / 知微・張詠
張忠定公視事退後,有一廳子熟睡。公詰之:「汝家有甚事?」對曰:「母久病,兄為客未歸。」訪之果然。公翌日差場務一名給之,且曰:「吾廳豈有敢睡者耶?此必心極幽懣使之然耳,故憫之。」〔馮述評〕體悉人情至此,人誰不願為之死乎?
新字:張忠定公視事退後,有一庁子熟睡。公詰之:「汝家有甚事?」対曰:「母久病,兄為客未帰。」訪之果然。公翌日差場務一名給之,且曰:「吾庁豈有敢睡者耶?此必心極幽懣使之然耳,故憫之。」〔馮述評〕体悉人情至此,人誰不願為之死乎?
書き下し
張忠定公、事を視て退きし後、一人の庁子の熟睡する有り。公之を詰る、「汝の家に何事か有る。」対えて曰く、「母は久しく病み、兄は客と為りて未だ帰らず。」之を訪うに果たして然り。公、翌日、場務一名を差して之に給し、且つ曰く、「吾が庁に豈に敢えて睡る者有らんや。此れ必ず心極めて幽懣して之をして然らしむるのみ。故に之を憫む。」〔馮述評〕人情を体悉すること此に至る。人誰か之が為に死せんことを願わざらん。
現代語訳
張詠(忠定公)が執務を終えて退いたあと、一人の庁の使用人が熟睡していた。張詠は彼を問い詰めた。「お前の家に何か事情があるのか。」使用人は答えた。「母が長く病んでおり、兄は旅に出たまま帰りません。」調べてみると本当にそのとおりだった。張詠は翌日、場務(役所の雑役)の者一人を割り当てて助けさせ、こう言った。「私の役所で、あえて居眠りをする者がいるはずがない。これはきっと、心がひどく沈み悩んで、そうさせているのだ。だから哀れに思ったのだ。」〔馮夢龍の評〕人情をここまで思いやる。誰がこの人のために死にたいと思わないだろうか。
解説
居眠りをしている部下を叱らずに、その理由を尋ね、事実を確かめて助けの手を差し伸べた張詠の話です。怠慢と見える行為の背景に、家庭の事情や精神的な負担があるかもしれない、という想像力が示されています。そのうえで事実を調べ、実際の支援を与えている点が重要で、同情だけで終わらせていません。管理職が部下の不調や遅刻、ミスの増加に気づいたとき、すぐに評価に反映させる前に事情を聞く姿勢が信頼を生みます。馮夢龍も、ここまで思いやる上司のために人は命も捧げる、と評価します。
この章句が説くこと
熟睡心極幽懣憫部下への思いやり事情を聞く信頼関係
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