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武士訓 / 卷四・第5段

人ありて他をそしるとも。其ものに同すべからず。林和靖が語に。耳雖聞不親曰者。不可從而言之といへり。(いやしき諺に。他のうそは。わがうそといふごとし。)俗人は。善をあぐることをこのまず。惡をあばくことを好めり。この故に一を十にし。十を百にしていひまはる。一人虛をつたふれば。萬人實をつたふならひなり。相違をもたゞさず。みだりに書にしるして。後世に貽すときは。是非邪正を見だることあり。よく〱心をつくべし。

新字:人ありて他をそしるとも。其ものに同すべからず。林和靖が語に。耳雖聞不親曰者。不可従而言之といへり。(いやしき諺に。他のうそは。わがうそといふごとし。)俗人は。善をあぐることをこのまず。悪をあばくことを好めり。この故に一を十にし。十を百にしていひまはる。一人虚をつたふれば。万人実をつたふならひなり。相違をもたゞさず。みだりに書にしるして。後世に貽すときは。是非邪正を見だることあり。よく〱心をつくべし。

書き下し

人ありて他をそしるとも。其ものに同すべからず。林和靖が語に。耳雖聞不親曰者。不可從而言之といへり。(いやしき諺に。他のうそは。わがうそといふごとし。)俗人は。善をあぐることをこのまず。惡をあばくことを好めり。この故に一を十にし。十を百にしていひまはる。一人虛をつたふれば。萬人實をつたふならひなり。相違をもたゞさず。みだりに書にしるして。後世に貽すときは。是非邪正を見だることあり。よく〱心をつくべし。

現代語訳

人が他人をそしっても、その者に同調してはなりません。林和靖の語に「耳に聞いても、自ら親しく確かめたのでなければ、それに従って口にしてはならない」とあります。(卑しい諺に、他人の嘘は自分の嘘、というのがあります。)俗人は、善を挙げることを好まず、悪をあばくことを好みます。このために、一を十にし、十を百にして言いふらします。一人が虚を伝えれば、万人が実として伝えるのが世の習いです。相違をただすこともなく、みだりに書に記して後世に残せば、是非邪正を乱すことがあります。よくよく心を尽くしなさい。

解説

この段は、人が他人をそしっても同調してはならない、と述べます。林和靖の語を引き、耳に聞いただけで自分で確かめていないことは口にしてはならないとします。俗人は善より悪を挙げることを好み、一を十にし、十を百にして言い回るとも指摘されます。一人が虚を伝えれば万人が実として伝えるという一節は、噂が広がる仕組みを言い当てています。さらに、確かめもせず書き記して後世に残せば、是非邪正を乱すと戒めます。いまは、チャットやSNSで噂が一瞬で広がる時代です。確かめていない話は伝えない、伝えるときは出所を添える、という習慣が、組織の信頼を守ります。

この章句が説くこと

噂同調しない林和靖事実確認記録武士訓

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