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驢鞍橋 / 卷下

其方抔、今の念の形、面に出したらば、如何樣なる形ならんと思はるゝや、大略皆蛇の躰計なるべし、淺ましきことに非ずや。然る間無念千萬なること哉と、慚愧懺悔して力を出し、奥牙を咬み、拳を握て胸を扣き、身をつねり、憎い糞袋め哉と睨付て、南無阿彌陀佛南無阿彌陀佛と申すべし。少しも油斷せば、我地獄は措き、あの女は善の惡の、誰れは憎い愛いと餘所の妄想まで取り來り、胸の中に取込んて、我地獄と成る物也。返へす返へす願力强く起し、善惡ともに一念も胸に留めじと、五臟六腑を吐出して念佛申さるべし。

新字:其方抔、今の念の形、面に出したらば、如何様なる形ならんと思はるゝや、大略皆蛇の体計なるべし、浅ましきことに非ずや。然る間無念千万なること哉と、慚愧懺悔して力を出し、奥牙を咬み、拳を握て胸を扣き、身をつねり、憎い糞袋め哉と睨付て、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏と申すべし。少しも油断せば、我地獄は措き、あの女は善の悪の、誰れは憎い愛いと余所の妄想まで取り来り、胸の中に取込んて、我地獄と成る物也。返へす返へす願力强く起し、善悪ともに一念も胸に留めじと、五臓六腑を吐出して念仏申さるべし。

書き下し

其方抔、今の念の形、面に出したらば、如何様なる形ならんと思はるゝや、大略皆蛇の体計なるべし、浅ましきことに非ずや。然る間無念千万なること哉と、慚愧懺悔して力を出し、奥牙を咬み、拳を握て胸を扣き、身をつねり、憎い糞袋め哉と睨付て、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏と申すべし。少しも油断せば、我地獄は措き、あの女は善の悪の、誰れは憎い愛いと余所の妄想まで取り来り、胸の中に取込んて、我地獄と成る物也。返へす返へす願力强く起し、善悪ともに一念も胸に留めじと、五臓六腑を吐出して念仏申さるべし。

現代語訳

あなたたちの、今の念の形を顔に出したら、どのような形になると思われるか。たいていはみな蛇の体ばかりであろう。浅ましいことではないか。だから、無念千万なことだと慚愧懺悔して力を出し、奥歯を噛み、拳を握って胸を叩き、身をつねり、憎い糞袋めと睨みつけて、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏と申しなさい。少しでも油断すれば、自分の地獄はさておき、あの女は善いの悪いの、誰それは憎い愛しいと、よその妄想まで取ってきて、胸の中に取り込んで、自分の地獄となるものである。返す返すも願いの力を強く起こし、善も悪も一念も胸に留めまいと、五臓六腑を吐き出して念仏を申しなさい。

解説

今の心の形を顔に出したら、みな蛇のような姿だろう、と正三は若い女性たちに迫る。そして、少しでも油断すると、あの人は良い悪い、誰それが憎い愛しいと、他人のことまで胸に取り込み、自分の地獄にしてしまう、と戒める。人間関係の噂や評価を抱え込んで苦しむ心は、今も変わらない。善悪どちらの思いも胸に留めず、全部吐き出すように念仏せよ、という処方は、心を空にする実践として具体的である。

この章句が説くこと

妄想人間関係念仏吐き出す心の形

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