文子 / 上德
土之勢勝水,一掬不能塞江河;水之勢火,一酌不能救一車之薪。冬有雷,夏有雹,寒暑不變其節,霜雪麃麃,日出而流。傾易覆也,倚易翻也,幾易助也,濕易雨也,蘭芷以芳,不得見霜,蟾蜍塗兵,壽在五月之望,精泄者中易殘,華非時者不可食。舌之與齒,孰先弊焉?繩之與矢,孰先直焉?使影曲者形也,使響濁者聲也。與死同病者,難為良醫,與亡國同道者,不可為忠謀。使倡吹竽,使工攝竅,雖中節,以可使決,君形亡焉。聾者不歌,無以自樂,盲者不觀,無以接物。步於林者,不得直道,行於險者,不得履繩,海內其所出,故能大。日不並出,狐不二雄,神龍不匹,猛獸不群,鷙鳥不雙,蓋非橑不蔽日,輪非輻不追疾,橑輪未足恃也。弧弓能射,而非弦不發,發矢之為射,十分之一。飢馬在廄,漠然無聲,投芻其旁,爭心乃生。三寸之管無當,天下不能滿,十石而有塞,百斗而足。
新字:土之勢勝水,一掬不能塞江河;水之勢火,一酌不能救一車之薪。冬有雷,夏有雹,寒暑不変其節,霜雪麃麃,日出而流。傾易覆也,倚易翻也,幾易助也,湿易雨也,蘭芷以芳,不得見霜,蟾蜍塗兵,寿在五月之望,精泄者中易残,華非時者不可食。舌之与歯,孰先弊焉?縄之与矢,孰先直焉?使影曲者形也,使響濁者声也。与死同病者,難為良医,与亡国同道者,不可為忠謀。使倡吹竽,使工摂竅,雖中節,以可使決,君形亡焉。聾者不歌,無以自楽,盲者不観,無以接物。歩於林者,不得直道,行於険者,不得履縄,海内其所出,故能大。日不並出,狐不二雄,神竜不匹,猛獣不群,鷙鳥不双,蓋非橑不蔽日,輪非輻不追疾,橑輪未足恃也。弧弓能射,而非弦不発,発矢之為射,十分之一。飢馬在廄,漠然無声,投芻其旁,争心乃生。三寸之管無当,天下不能満,十石而有塞,百斗而足。
書き下し
土の勢いは水に勝つも、一掬は江河を塞ぐ能わず。水の勢いは火に勝つも、一酌は一車の薪を救う能わず。冬に雷有り、夏に雹有るも、寒暑は其の節を変えず。霜雪麃麃たるも、日出づれば流る。傾けば覆り易く、倚れば翻り易く、幾なれば助け易く、湿なれば雨ふり易し。蘭芷は以て芳しく、霜を見るを得ず。蟾蜍の兵に塗るは、寿は五月の望に在り。精泄るる者は中て残われ易く、華咲く非時なる者は食う可からず。舌と歯と、孰れか先に弊るるか。縄と矢と、孰れか先に直きか。影をして曲がらしむる者は形なり、響きをして濁らしむる者は声なり。死と病を同じくする者は、良医たり難く、亡国と道を同じくする者は、忠謀を為す可からず。倡をして竽を吹かしめ、工をして竅を攝らしむれば、節に中ると雖も、以て決せしむ可きも、君形亡し。聾者は歌わず、以て自ら楽しむ無し、盲者は観ず、以て物に接する無し。林を歩む者は、直き道を得ず、険を行く者は、縄を履むを得ず。海内は其の出づる所なれば、故に能く大なり。日は並び出でず、狐は二雄ならず、神龍は匹せず、猛獣は群せず、鷙鳥は双ならず。蓋は橑に非ざれば日を蔽わず、輪は輻に非ざれば疾きを追わず、橑輪は未だ恃むに足らず。弧弓は射る能うも、弦に非ざれば発せず、矢を発するの射と為るは、十分の一なり。飢えたる馬廏に在りて、漠然として声無く、芻を其の旁に投ずれば、争心乃ち生ず。三寸の管に当無ければ、天下も満たす能わず、十石にして塞有らば、百斗にして足る。
現代語訳
土の勢いは水に勝つが、一握りの土では江河を塞げない。水の勢いは火に勝つが、一杯の水では一車の薪の火を消せない。冬に雷が鳴り、夏に雹が降っても、寒さと暑さはその節を変えない。霜雪が白々と積もっても、日が出れば溶ける。傾いたものは覆りやすく、寄りかかったものは倒れやすく、危ういときは助けやすく、湿ったときは雨が降りやすい。蘭や芷は芳しく、霜を見ずに済む。蟾蜍を武器に塗るのは、命が五月の満月にあるからだ。精を漏らす者は傷つきやすく、季節外れに咲いた花は食べられない。舌と歯は、どちらが先に弊れるか。縄と矢は、どちらが先に直いか。影を曲げるのは形であり、響きを濁らせるのは声である。死にゆく者と病を同じくする者は良医になりがたく、亡国と道を同じくする者は忠実な謀を立てられない。楽人に竽を吹かせ、笛の穴を押さえさせれば、拍子には合っていても、肝心の中心となる形が失われている。耳の聞こえない者は歌わず、自ら楽しむ手立てがなく、目の見えない者は観ず、物に接する手立てがない。林を歩む者は真っ直ぐな道を取れず、険しいところを行く者は縄の上を踏めない。海内はその出るところだから、大きくなれる。日は並び出ず、狐に二匹の雄はおらず、神龍は匹敵するものがなく、猛獣は群れず、猛禽は番わない。傘は骨組みがなければ日を遮れず、車輪は輻がなければ速く走れないが、骨組みと車輪だけに頼るわけにはいかない。弧弓は射ることができるが、弦がなければ発せず、矢を放つ射としては十分の一にすぎない。飢えた馬が厩にいて静かにしているが、かいばをその横に投げれば争いの心が生まれる。三寸の管に底がなければ天下の水も満たせないが、十石の桶に栓があれば百斗で足りる。
解説
この章句が説くこと
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文子・上德葉をして落たしむる者は、風の之を揺がすなり、水をして濁らしむる者は、物の之を撓すなり。璧鍰の器は、礛の功なり、莫邪の断割するは、砥礪の力なり。蝱と驥と千里に致るも、飛ばずして、糧を裹む資無きも飢えず。狡兔得られて猟犬烹られ、高鳥尽きて良弓蔵めらる。名成り功遂げて身退くは、天道の然るなり。怒りは不怒より出で、為すは不為より出づ。無有に視れば則ち見る所を得、無声に聴けば則ち聞く所を得。飛鳥は郷に反り、兎走りて窟に帰り、狐死して首を丘にし、寒螿は木に洋す。各々其の生ずる所に依るなり。水火相憎めども、鼎鬲其の間に在りて、五味以て和す。骨肉相愛すれども、讒人之を間つれば、父子相危うし。犬豕は器を択ばずして食い、愈々其の体を肥やし、故に死に近づく。鳳皇は千仞に翔けて、之を能く致す莫し。推固は百内にして自ら椓つ能わず、目は百歩の外を見て其の眥を見る能わず。高きに因りて山を為らば即ち安くして危うからず、下きに因りて池を為らば即ち淵深くして魚鱉帰す。溝は澇なれば即ち溢れ、旱なれば即ち枯る。河海の源は淵深くして竭きず。鱉は耳無くして目は以て蔽う可からず、明に精なればなり。瞽は目無くして耳は以て蔽う可からず、聡に精なればなり。混混の水濁らば、以て吾が足を濯う可きか。泠泠の水清ければ、以て吾が纓を濯う可きか。糸の縞と為るや、或いは冠と為り、或いは袜と為る。冠と為れば則ち戴きて之を枝し、袜と為れば則ち足にて之を蹍む。金の勢いは木に勝つも、一刃は一林の木を残う能わず。
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文子・上德君子に酒有れば、小人は缶を鞭つ。好む可からずと雖も、亦た醜しむ可し。人の性は、綿帛を衣るに便なり、或いは之を射れば則ち甲を被る。便ならざる所を為すは、以て其の便を得んとなり。三十輻、一轂を共にし、各々一鑿に直りて、相入るを得ざるは、猶お人臣の各々其の職を守るがごとし。善く人を用うる者は、蚈の足の若く、衆くして相害せず、舌と歯の若く、堅柔相磨して相敗らず。石は生まれながらにして堅く、茞は生まれながらにして芳し、少くして之有り、長じて逾々明らかなり。扶と提と、謝と譲と、得と失と、諾と已と、相去ること千里なり。再び生ずる者は獲られず、華太だ早き者は霜を須たずして落つ。其の準を汚し、其の顙に粉し、腐鼠を阼に置き、薫を堂に焼く。水に入りて濡るること増し、臭いを懐いて芳しきを求むれば、善き者と雖も工と為る能わず。冬の氷は折る可く、夏の木は結ぶ可し。時は得難くして失い易し。木方に盛んなれば、終日之を采りて復た生ず。秋風霜を下せば、一夕にして零つ。質的張りて矢射集まり、林木茂りて斧斤入る。或いは之を召すに非ず、形勢の致す所なり。乳犬の虎を噬み、伏鶏の狸を搏つは、恩の加わる所にして、其の力を量らず。夫れ利を待ちて溺るるを登る者は、亦た必ず将に利を以て之を溺れしめんとするなり。舟は能く浮き能く沈むも、愚者は足を知らず。驥は之を駆れども進まず、引けども止まらず、人君は以て道里を取らず。
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