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文明一統記 / 孝行・親の恩と、諫めることも孝行

高きも卑きも、父母なきものはなし、父母の恩の重さことをいふに、釋尊の內敎、孔子の外典にも此ことを說給へり、佛の敎には、左の方に父を荷ひ、右のかたに母を荷ひて、毎日に須彌山をめぐるとも、此恩はなをむくひがたかるべしと說給へり、孔子の敎には、身體髮膚は父母にうけたり、敢て毀ひ傷らざるを孝のはじめといへり、たとへば子たるものゝ、我身は親のあづけたるものなれば、いかにも身を愼て、疵かたわもつかぬやうにふるまはむが、孝行の道なるべし、其故は、子の身に病つゝがもあれば、親は愁かなしむものたるによりて、よく身を愼めば、親のうれひをなさざるによりて、孝行とは成もの也、次に父母の過ち有時は、子たるものゝ諫めざるも、又不孝の罪なるべし、其あやまちあらん時は、いかにも機嫌をとり、言葉をやはらげ、色をよくして、敎訓をいたすべき也、それにもかゝはらずば、なきくどき、そら腹立をしても、思ひなをるやうに敎訓すべきが孝行にて侍る也、そも〱我身が親に不孝なれば、其むくひに我まうけたる子が、又吾に不孝なるべきによりて、其時に思知事有べき也、凡夫の習、內典外典にいふがごとくうつくしくはふるまはれぬことなれど、其道理をば、誰々もよく心得給ふべき事なるべし、

新字:高きも卑きも、父母なきものはなし、父母の恩の重さことをいふに、釈尊の内教、孔子の外典にも此ことを説給へり、仏の教には、左の方に父を荷ひ、右のかたに母を荷ひて、毎日に須弥山をめぐるとも、此恩はなをむくひがたかるべしと説給へり、孔子の教には、身体髪膚は父母にうけたり、敢て毀ひ傷らざるを孝のはじめといへり、たとへば子たるものゝ、我身は親のあづけたるものなれば、いかにも身を慎て、疵かたわもつかぬやうにふるまはむが、孝行の道なるべし、其故は、子の身に病つゝがもあれば、親は愁かなしむものたるによりて、よく身を慎めば、親のうれひをなさざるによりて、孝行とは成もの也、次に父母の過ち有時は、子たるものゝ諫めざるも、又不孝の罪なるべし、其あやまちあらん時は、いかにも機嫌をとり、言葉をやはらげ、色をよくして、教訓をいたすべき也、それにもかゝはらずば、なきくどき、そら腹立をしても、思ひなをるやうに教訓すべきが孝行にて侍る也、そも〱我身が親に不孝なれば、其むくひに我まうけたる子が、又吾に不孝なるべきによりて、其時に思知事有べき也、凡夫の習、内典外典にいふがごとくうつくしくはふるまはれぬことなれど、其道理をば、誰々もよく心得給ふべき事なるべし、

書き下し

高きも卑きも、父母なきものはなし、父母の恩の重さことをいふに、釋尊の內敎、孔子の外典にも此ことを說給へり、佛の敎には、左の方に父を荷ひ、右のかたに母を荷ひて、毎日に須彌山をめぐるとも、此恩はなをむくひがたかるべしと說給へり、孔子の敎には、身體髮膚は父母にうけたり、敢て毀ひ傷らざるを孝のはじめといへり、たとへば子たるものゝ、我身は親のあづけたるものなれば、いかにも身を愼て、疵かたわもつかぬやうにふるまはむが、孝行の道なるべし、其故は、子の身に病つゝがもあれば、親は愁かなしむものたるによりて、よく身を愼めば、親のうれひをなさざるによりて、孝行とは成もの也、次に父母の過ち有時は、子たるものゝ諫めざるも、又不孝の罪なるべし、其あやまちあらん時は、いかにも機嫌をとり、言葉をやはらげ、色をよくして、敎訓をいたすべき也、それにもかゝはらずば、なきくどき、そら腹立をしても、思ひなをるやうに敎訓すべきが孝行にて侍る也、そも〱我身が親に不孝なれば、其むくひに我まうけたる子が、又吾に不孝なるべきによりて、其時に思知事有べき也、凡夫の習、內典外典にいふがごとくうつくしくはふるまはれぬことなれど、其道理をば、誰々もよく心得給ふべき事なるべし、

現代語訳

身分の高い者も低い者も、父母のない者はいません。父母の恩の重さについては、釈迦の内典にも孔子の外典にも説かれています。仏の教えでは、左の肩に父を担い、右の肩に母を担って、毎日須弥山をめぐったとしても、この恩にはなお報いがたいと説かれています。孔子の教えでは、身体髪膚は父母から受けたものであり、あえて傷つけないのが孝の始めだと言います。たとえば子たる者にとって、我が身は親から預かったものですから、身を慎んで、傷や不具が付かないように振る舞うことが孝行の道でしょう。そのわけは、子の身に病や災いがあれば、親は憂い悲しむものですから、よく身を慎めば親に憂いをかけず、孝行となるのです。次に、父母に過ちがあるときに、子が諫めないのもまた不孝の罪でしょう。その過ちがあるときは、機嫌をうかがい、言葉を和らげ、顔色をよくして、教え諭すべきです。それでも聞き入れないなら、泣いて口説き、空腹立ちをしてでも、思い直すように教え諭すのが孝行なのです。そもそも我が身が親に不孝であれば、その報いとして自分がもうけた子がまた自分に不孝となるので、そのときに思い知ることがあるでしょう。凡夫の習いで、内典外典に言うほど美しくは振る舞えないものですが、その道理だけは誰もがよく心得ておくべきことでしょう。

解説

親の恩の重さを仏教と儒教の両方から述べ、身を慎むことと、親の過ちを諫めることの二つを孝行の中身として示す一節です。穏やかな言葉と顔色で諭し、それでも聞かれなければ泣いてでも伝えるという粘り強さが語られています。これは管理職が上司や目上の人に意見する場面に置き換えられます。間違いを見て黙ることは忠実さではなく責任の放棄になりかねません。相手の機嫌と言葉づかいに配慮しつつ、諦めずに伝える工夫が組織を守ります。

この章句が説くこと

『文明一統記』一条兼良孝行父母の恩諫言身体髪膚

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