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文武訓 / 武訓下

いかなる大事にのぞんでも、かたく此道を守り、心を動かすべからず。勇氣をふるひおこして、强敵に俄にあひてたゝかふとも、心をしづかにしてうごかすべからず。勇者は、其かうべをうしなふと此道をわすれずして、心にかなしみうれふべからず。死にのぞんでもおそるまじき理をあきらめ、平生勇氣をやしなふべし。義ありて性剛强なる人は、此志をたもちやすし。柔弱なる人も、常に義をたつとび、此志を保ちて失はざるべし。士の子も、わかき時より武勇に志なければ、節にのぞんで心つたなくして恐る。四民ともに、常に氣を養ひて、心をうごかさゞる工夫をわするべからず。氣の强弱は、人の生れつきによれども、勇にして節義を守る志は忘るべからず。勇者はおそれず。又、勇士は、其かうべをうしなふにわすれずとは、死にのぞむまで、この義を守る志をわすれずとなり。

新字:いかなる大事にのぞんでも、かたく此道を守り、心を動かすべからず。勇気をふるひおこして、強敵に俄にあひてたゝかふとも、心をしづかにしてうごかすべからず。勇者は、其かうべをうしなふと此道をわすれずして、心にかなしみうれふべからず。死にのぞんでもおそるまじき理をあきらめ、平生勇気をやしなふべし。義ありて性剛強なる人は、此志をたもちやすし。柔弱なる人も、常に義をたつとび、此志を保ちて失はざるべし。士の子も、わかき時より武勇に志なければ、節にのぞんで心つたなくして恐る。四民ともに、常に気を養ひて、心をうごかさゞる工夫をわするべからず。気の強弱は、人の生れつきによれども、勇にして節義を守る志は忘るべからず。勇者はおそれず。又、勇士は、其かうべをうしなふにわすれずとは、死にのぞむまで、この義を守る志をわすれずとなり。

書き下し

いかなる大事にのぞんでも、かたく此道を守り、心を動かすべからず。勇気をふるひおこして、強敵に俄にあひてたたかふとも、心をしづかにしてうごかすべからず。勇者は、其かうべをうしなふと此道をわすれずして、心にかなしみうれふべからず。死にのぞんでもおそるまじき理をあきらめ、平生勇気をやしなふべし。義ありて性剛強なる人は、此志をたもちやすし。柔弱なる人も、常に義をたつとび、此志を保ちて失はざるべし。士の子も、わかき時より武勇に志なければ、節にのぞんで心つたなくして恐る。四民ともに、常に気を養ひて、心をうごかさざる工夫をわするべからず。気の強弱は、人の生れつきによれども、勇にして節義を守る志は忘るべからず。勇者はおそれず。又、勇士は、其かうべをうしなふにわすれずとは、死にのぞむまで、この義を守る志をわすれずとなり。

現代語訳

どんな大事に臨んでも、固くこの道を守り、心を動かしてはいけません。勇気を奮い起こして強敵とにわかに戦うことになっても、心を静かにして動かしてはいけません。勇者は首を失ってもこの道を忘れず、心に悲しみ憂えてはならないのです。死に臨んでも恐れるべきでない理を明らかにし、ふだんから勇気を養うべきです。義があって性質が剛強な人は、この志を保ちやすい。柔弱な人も、常に義を尊び、この志を保って失わないようにすべきです。武士の子も、若いときから武勇に志がなければ、いざというときに心がつたなくて恐れます。士農工商ともに、常に気を養って、心を動かさない工夫を忘れてはいけません。気の強弱は人の生まれつきによりますが、勇にして節義を守る志は忘れてはいけません。勇者は恐れません。また「勇士はその首を失うことを忘れず」とは、死に臨むまでこの義を守る志を忘れないということです。

解説

論語の「勇者は懼れず」、孟子の「勇士はその元を喪ふを忘れず」を引いて、死をも恐れない心の養い方を説きます。益軒は、気の強さは生まれつきでも、義を守る志は誰でも持てると言い、四民すべてに気を養う工夫を求めました。武士だけの話にしない点に、庶民にも教えを広めた益軒らしさが見えます。現代でも、プレッシャーに強い人は生まれつきより、日ごろ自分の大切にする価値をはっきり持っている人です。志が心の芯となって揺れを抑えてくれるのです。

この章句が説くこと

勇気志節義孟子平常心

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