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文武訓 / 武訓上

もし表裏多くして人を欺き、いつはりを行ひて、士卒そむきうらみば、百萬の兵ありとも、戰ひ勝つことかたかるべし。故に、兵の道は仁義を本とし、信を以て諸人の心を服するにあり。孫子が權謀を專にせしも、將の道は智信仁勇嚴也といへり。もし將となる人、仁義忠信をすてて、あはれみなくなさけなく、表裏を行ひてまことなく、只わが身を利せんとし、士卒皆これに見ならひ、化して恥なくば、なんぞ戰にのぞみて信を守り、君のため忠義を行ひ、命をすて節に死する者あらんや。是を日本の武道といふべからざるこ辯ぜずして其非を知るべし。

新字:もし表裏多くして人を欺き、いつはりを行ひて、士卒そむきうらみば、百万の兵ありとも、戦ひ勝つことかたかるべし。故に、兵の道は仁義を本とし、信を以て諸人の心を服するにあり。孫子が権謀を専にせしも、将の道は智信仁勇厳也といへり。もし将となる人、仁義忠信をすてて、あはれみなくなさけなく、表裏を行ひてまことなく、只わが身を利せんとし、士卒皆これに見ならひ、化して恥なくば、なんぞ戦にのぞみて信を守り、君のため忠義を行ひ、命をすて節に死する者あらんや。是を日本の武道といふべからざるこ弁ぜずして其非を知るべし。

書き下し

もし表裏多くして人を欺き、いつはりを行ひて、士卒そむきうらみば、百万の兵ありとも、戦ひ勝つことかたかるべし。故に、兵の道は仁義を本とし、信を以て諸人の心を服するにあり。孫子が権謀を専にせしも、将の道は智信仁勇厳也といへり。もし将となる人、仁義忠信をすてて、あはれみなくなさけなく、表裏を行ひてまことなく、只わが身を利せんとし、士卒皆これに見ならひ、化して恥なくば、なんぞ戦にのぞみて信を守り、君のため忠義を行ひ、命をすて節に死する者あらんや。是を日本の武道といふべからざるこ弁ぜずして其非を知るべし。

現代語訳

もし表裏が多くて人を欺き、偽りを行って、士卒がそむき恨むなら、百万の兵があっても、戦って勝つことは難しいでしょう。ゆえに兵の道は仁義を本とし、信によって人々の心を服させることにあります。権謀を専らにした孫子でさえ、「将の道は智・信・仁・勇・厳である」と言いました。もし将となる人が、仁義忠信を捨てて、あわれみも情けもなく、表裏を行って誠がなく、ただ自分の身の利益を図り、士卒がみなこれを見習って、感化されて恥を知らなくなれば、どうして戦いに臨んで信を守り、君のために忠義を行い、命を捨てて節に死ぬ者があるでしょうか。これを日本の武道と言ってはならないことは、論じなくてもその誤りが分かるでしょう。

解説

だましを武道とする説への反論の締めくくりです。偽りの多い将には部下がそむき、百万の兵があっても勝てないと言います。そして権謀の書とされる『孫子』でさえ、始計篇で将の条件に「智・信・仁・勇・厳」を挙げていることを示し、相手の拠りどころを逆手に取って論破します。上に立つ者がずるければ、部下もそれを見習い、いざというとき誰も踏みとどまらない。組織の文化はトップの姿勢で決まるという、今の経営にもそのまま通じる教えです。

この章句が説くこと

孫子信仁将組織

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