文武訓 / 文訓下之末
一葉少薀が曰、文章世の敎にあづからざれば、巧なれども益なし。古今の文章、世の敎になるべきはまれなり。しからば今文を作る人も、世敎の助となる文を作るべし。一謝疊山が文章軌範、文章の學に助あり。文章を學ばば、先論語孟子を熟讀し、次に文章軌範を以て則とすべし。近年末世のいやしき文を見習ふべからず。
新字:一葉少薀が曰、文章世の教にあづからざれば、巧なれども益なし。古今の文章、世の教になるべきはまれなり。しからば今文を作る人も、世教の助となる文を作るべし。一謝畳山が文章軌範、文章の学に助あり。文章を学ばば、先論語孟子を熟読し、次に文章軌範を以て則とすべし。近年末世のいやしき文を見習ふべからず。
書き下し
一葉少薀が曰、文章世の教にあづからざれば、巧なれども益なし。古今の文章、世の教になるべきはまれなり。しからば今文を作る人も、世教の助となる文を作るべし。一謝畳山が文章軌範、文章の学に助あり。文章を学ばば、先論語孟子を熟読し、次に文章軌範を以て則とすべし。近年末世のいやしき文を見習ふべからず。
現代語訳
葉少蘊が言いました。「文章は世の教えにかかわらなければ、巧みであっても益がない」。古今の文章で、世の教えとなるものはまれです。それならば、今文章を作る人も、世の教えの助けとなる文章を作るべきです。謝畳山の『文章軌範』は、文章の学問に助けがあります。文章を学ぶなら、まず『論語』『孟子』を熟読し、次に『文章軌範』を手本とすべきです。近年の末世の卑しい文章を見習ってはいけません。
解説
宋の葉夢得(字は少蘊)の言葉を引いて、文章の値打ちは技巧ではなく世の教えに役立つかどうかにあると説きます。そして文章の学び方として、まず『論語』『孟子』を熟読し、次に宋の謝枋得(号は畳山)が名文を集めた『文章軌範』を手本にせよと具体的に勧めます。『文章軌範』は江戸時代に作文の教科書として広く読まれました。今でも、上手な文章を書きたければ、まず優れた古典と名文を繰り返し読むことが一番の近道です。
この章句が説くこと
文章教え論語孟子手本
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『慎思録』巻之五文章を作るには、経義に依りて条理有るを貴ぶ。須らく平易にして簡要、含蓄して余味有るべし。必ずしも艱険奇異の辞を為して、以て其の美を誇耀することを要せず。謝畳山の文章軌範は、文章の学に資する有り。其の文多く唐宋の大家を取りて、漢魏六朝より出づる者寡し。鄒東廓も亦文章軌範の続集を選ぶ。其の中唐以前の文を収録する者多し。初学の士、二書を併せて之を用ひて可なり。今の学者文字を作為せんと欲せば、便ち先づ論語孟子を熟読し、又斯の二書を記誦すべし。則ち意を用ひ材を取るに源委有りて、且つ作文の法に達せん。
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『文武訓』文訓上必ず中夏の文字を用ふべし。博く書を読みし人も、かねて中夏の文章を学ばざれば、時にのぞみ、筆をとりて文を作るべきすべを知らず。みだりに作れば法に合はず、文字の置きやうつづけやう、布置成語連続助字の法を知らずして、ひが事多く、文字顛倒して置きやうちがひ、文理をなさず、識者の謗免れがたし。殊に中夏の人の見て、誹笑せんもはづかし。故に学士は、必ず文章を学ぶべし。是を学ぶの法、まづ六経語孟を本とし、左伝、史記、漢書、文選、韓柳欧蘇等の文を学ぶべし。其中について、心にかなへる文をえらびて、三十篇ばかりそらんじ、書きおぼえて熟誦すべし。如斯すれば、おのづから文法をさとり、文字の置きやうを知るべし。経史を見るいとまには、少の力を用ひて作文を学ぶべし。
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『文武訓』文訓下一韓柳欧蘇曽南豊などが文の内、心にかなへるを、三四十篇えらび出し、別本にうつし、そらに読みそらに書きおぼゆるは、文章を作ることをまなぶ良法なり。朱子の言にも、此意見えたり。如斯すれば、文字の置所、助字の用様をおのづから知りて、顛倒の誤なく、連続せざる字、又俗語を用ひずしてよし。本朝古人の文に、字の置きやう顛倒多く、連続せざる文字と、俗語とを用ひたる誤多し。殊に風体軟媚にして、奇巧をこのんでいやし。巧をこのめば弥拙し、と古人のいひしも、むべなり。
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『文武訓』文訓上之末一文字知らぬ人は、つねの言語にもあやまり多く、かたことありて聞きにくし。又、書状の詞もつたなくして、理もきこえず。かくの如くなれば、つねの才行よりも、はるかに人に見くだされ、人に笑はれて、弁の人にすぐれたるも、貌のうるはしきも、むなしくなるこそあさましけれ。又世に行はるる通用の文字言語の字、諸物の名の文字を知らざれば、世事にうとく、事ゆかざること多し。世間通用の文字をもつとめて知るべし。経史の文字を知るにくらぶれば、きはめてたやすきことなり。少し心にかくべし。それだに知らざるは、むげにいやしむべし。
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