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文武訓 / 文訓下

一およそ、事を記す文は、後世に傳はる故おもき大事なり。わが記すこと後代の證となれり。愼みて、みだりにしるすべからず、質實にしていつはりかざりなかるべし。もし實ならずして、詞を巧にし、飾を專にすれば、其記す所誠としがたし、實錄とすべからず。益なきのみならずして、僞をつたふれば、後の害となる故に、事を記す文は、むしろいやしくつたなくとも、すなほに實なるべし。かざりて實を失ふべからず。其上かざり多ければ、無用の贅言ありて簡要ならず、人に益なし。事長くして見る人うめり。いにしへ文章に名ある人の作れるは、事を記すにいつはりかざりなく、質實にして無用のことばなく、言約に事詳にして、理明らかなり。其文のうるはしく精巧なる事は、かざらずしておのづから其中にあり。

新字:一およそ、事を記す文は、後世に伝はる故おもき大事なり。わが記すこと後代の証となれり。慎みて、みだりにしるすべからず、質実にしていつはりかざりなかるべし。もし実ならずして、詞を巧にし、飾を専にすれば、其記す所誠としがたし、実録とすべからず。益なきのみならずして、偽をつたふれば、後の害となる故に、事を記す文は、むしろいやしくつたなくとも、すなほに実なるべし。かざりて実を失ふべからず。其上かざり多ければ、無用の贅言ありて簡要ならず、人に益なし。事長くして見る人うめり。いにしへ文章に名ある人の作れるは、事を記すにいつはりかざりなく、質実にして無用のことばなく、言約に事詳にして、理明らかなり。其文のうるはしく精巧なる事は、かざらずしておのづから其中にあり。

書き下し

一およそ、事を記す文は、後世に伝はる故おもき大事なり。わが記すこと後代の証となれり。慎みて、みだりにしるすべからず、質実にしていつはりかざりなかるべし。もし実ならずして、詞を巧にし、飾を専にすれば、其記す所誠としがたし、実録とすべからず。益なきのみならずして、偽をつたふれば、後の害となる故に、事を記す文は、むしろいやしくつたなくとも、すなほに実なるべし。かざりて実を失ふべからず。其上かざり多ければ、無用の贅言ありて簡要ならず、人に益なし。事長くして見る人うめり。いにしへ文章に名ある人の作れるは、事を記すにいつはりかざりなく、質実にして無用のことばなく、言約に事詳にして、理明らかなり。其文のうるはしく精巧なる事は、かざらずしておのづから其中にあり。

現代語訳

およそ事を記す文は、後世に伝わるので重大なことです。自分の記すことが後代の証拠となるのです。慎んで、みだりに記してはいけません。質実で、偽りや飾りがあってはいけません。もし真実でなく、言葉を巧みにし、飾りを専らにすれば、その記すところは誠とはしがたく、実録とはできません。益がないだけでなく、偽りを伝えれば後の害となるので、事を記す文は、むしろ卑しく拙くても、素直で真実であるべきです。飾って実を失ってはいけません。そのうえ飾りが多ければ、無用の贅言があって簡潔でなく、人に益がありません。事が長くて読む人は飽きてしまいます。昔の文章で名のある人の作ったものは、事を記すのに偽りや飾りがなく、質実で無用の言葉がなく、言葉は簡約で事は詳しく、理が明らかです。その文の美しく精巧なことは、飾らずとも自然にその中にあります。

解説

事実を記す文は後世の証拠になるので慎重に、質実に、偽りや飾りなく書けと説きます。飾れば信用されず、偽りを伝えれば後の害となり、贅言が多ければ読む人が飽きるという三つの害を挙げます。名文は言葉が簡約で事が詳しく理が明らかであり、美しさは飾らずとも自然に備わるという結びは、益軒の文章観の要です。今の報告書や記録、ニュース記事にもそのまま当てはまります。簡潔で正確な文章こそが、読み手に信頼され長く残るのです。

この章句が説くこと

記録誠実簡潔文章実録

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