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文武訓 / 文訓下

一貧賤なる人も、もしよく書をよんで、古の道を知り古の事に通ぜば、はるかに富貴にまさるべし。何ぞ貧賤をくるしみて、富貴をうらやまんや。一文章和歌のざえともしくば、只ふみを讀みて道を知り、事を廣く知りたらんこそ、樂おほかるべけれ。又、いにしへの人のつくれるよき詩を讀むは、たやすくして、其樂わが作るにまされり。つとめて筆をとりて、みづからはいみじきこといひ出すと思へど、拙きことを世にひろむること、われも人もしかり。

新字:一貧賤なる人も、もしよく書をよんで、古の道を知り古の事に通ぜば、はるかに富貴にまさるべし。何ぞ貧賤をくるしみて、富貴をうらやまんや。一文章和歌のざえともしくば、只ふみを読みて道を知り、事を広く知りたらんこそ、楽おほかるべけれ。又、いにしへの人のつくれるよき詩を読むは、たやすくして、其楽わが作るにまされり。つとめて筆をとりて、みづからはいみじきこといひ出すと思へど、拙きことを世にひろむること、われも人もしかり。

書き下し

一貧賤なる人も、もしよく書をよんで、古の道を知り古の事に通ぜば、はるかに富貴にまさるべし。何ぞ貧賤をくるしみて、富貴をうらやまんや。一文章和歌のざえともしくば、只ふみを読みて道を知り、事を広く知りたらんこそ、楽おほかるべけれ。又、いにしへの人のつくれるよき詩を読むは、たやすくして、其楽わが作るにまされり。つとめて筆をとりて、みづからはいみじきこといひ出すと思へど、拙きことを世にひろむること、われも人もしかり。

現代語訳

貧賤な人でも、もしよく書を読んで、古の道を知り、古のことに通じたなら、はるかに富貴にまさるでしょう。どうして貧賤を苦しんで富貴を羨む必要がありましょうか。文章や和歌の才が乏しければ、ただ書を読んで道を知り、事を広く知ることこそ、楽しみが多いでしょう。また、昔の人の作ったよい詩を読むのはたやすく、その楽しみは自分で作るのにまさります。努めて筆を取り、自分ではすばらしいことを言い出したと思っても、拙いことを世に広めるのは、自分も人も同じです。

解説

貧しくても書を読んで古の道と事に通じれば富貴にまさるのだから、貧しさを嘆き富を羨むことはないと説きます。また文章や和歌の才がなければ、自作にこだわらず読書で道を知り、古人のよい詩を読むほうが楽しみが大きいと勧めます。益軒は下級武士の家に生まれ、若い頃には浪人生活も経験しましたが、読書によって学者として身を立てました。今でも、お金をかけずに誰もが手にできる最大の財産は読書で得た知識と見識です。

この章句が説くこと

読書貧賤富貴楽しみ道

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