文武訓 / 文訓上之末
一わがともがら、詩歌の才力なきもの、詩歌のつくりがたきことを知らで、みだりにこのんで作れば、さこそ見ぐるしく、いやしきことは、人にわらはるべけれ。人告げざれば、惡しきことを知らず、かへつてみづからはよしと思ひて、ほこりて人にかゞやかす。わが詩文和歌などの、ひがごとあり、つたなきことを知らで人にあらはすは、いとおろかなり。ひろく人に見せざる内に、わが師友にひそかに見せて、其非をたゞさるゝは尤よし。それもわが作にほこりて、師友に見するは惡しし。詩文の惡しきこと、師友といへど、正直の人にあらざれば、其あしきことは告げがたし。
新字:一わがともがら、詩歌の才力なきもの、詩歌のつくりがたきことを知らで、みだりにこのんで作れば、さこそ見ぐるしく、いやしきことは、人にわらはるべけれ。人告げざれば、悪しきことを知らず、かへつてみづからはよしと思ひて、ほこりて人にかゞやかす。わが詩文和歌などの、ひがごとあり、つたなきことを知らで人にあらはすは、いとおろかなり。ひろく人に見せざる内に、わが師友にひそかに見せて、其非をたゞさるゝは尤よし。それもわが作にほこりて、師友に見するは悪しし。詩文の悪しきこと、師友といへど、正直の人にあらざれば、其あしきことは告げがたし。
書き下し
一わがともがら、詩歌の才力なきもの、詩歌のつくりがたきことを知らで、みだりにこのんで作れば、さこそ見ぐるしく、いやしきことは、人にわらはるべけれ。人告げざれば、悪しきことを知らず、かへつてみづからはよしと思ひて、ほこりて人にかがやかす。わが詩文和歌などの、ひがごとあり、つたなきことを知らで人にあらはすは、いとおろかなり。ひろく人に見せざる内に、わが師友にひそかに見せて、其非をたださるるは尤よし。それもわが作にほこりて、師友に見するは悪しし。詩文の悪しきこと、師友といへど、正直の人にあらざれば、其あしきことは告げがたし。
現代語訳
我々のうち詩歌の才力がない者が、詩歌を作ることの難しさを知らずに、みだりに好んで作れば、さぞ見苦しく卑しいもので、人に笑われるでしょう。人が告げてくれないので、悪いことを知らず、かえって自分ではよいと思って、誇って人に見せびらかします。自分の詩文や和歌などに誤りがあり、拙いことを知らずに人に見せるのは、たいへん愚かなことです。広く人に見せないうちに、自分の師や友にひそかに見せて、その誤りを正してもらうのは最もよいことです。それも、自分の作を誇って師友に見せるのはよくありません。詩文の悪い所は、師や友といっても、正直な人でなければ告げにくいものです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『文武訓』文訓上之末一人は只、わが身をかへりみて、わが身のさかしおろかなると、才あるとつたなきとのほどを知りて、つねに人にへりくだり、わが身にほこるべからず。才智ありてもなくしても、わが身にほこりたかぶり、人をこのんで見くだし、又そしるは罪ふかし。いとおろかなりといふべし。
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説苑・雜言昔者、南瑕子、程太子に過る、太子鯢魚を烹る。南瑕子曰く、「吾聞く、君子は鯢魚を食らわずと」と。程太子曰く、「乃ち君子か否か、子何ぞ焉を事とせん」と。南瑕子曰く、「吾聞く、君子上に比するは徳を広むる所以なり、下に比するは行いを狭むる所以なり、悪に於いて自ら退くの原なりと。詩に云う、『高山之を仰ぎ止み、景行之を行き止む』と。吾豈に敢えて自ら以て君子と為さんや、志して之に向かうのみ。孔子曰く、『賢を見ては斉しからんことを思い、不賢を見ては内に自ら省みる』と」と。
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『酔古堂剣掃』集醒・病を諱む者は病に死す貧を諱む者は、貧に死す、勝心之を使むればなり。病を諱む者は、病に死す、畏心之を蔽へばなり。愚を諱む者は、愚に死す、癡心之を覆へばなり。
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『文武訓』文訓下一常人は、わが身を知るにくらし。是、私の一字まぬかれがたければなり。わが身に才智なけれどありとし、少しあるは大にありとす。学問芸能つたなけれど、すぐれたりと思ひて、人に対してほこるは、我身を知らざるなり。是、愚なるなり。又わが詩歌文章のつたなきをよしとおもひて、人にしめすこと世に多し。殊に詩文は、わが国のこと葉にあらず、作りがたし。其上文学ひろく文字を多く知らざれば作りがたく、作ればひがごと多し。文学つたなくてこのんで詩文を作れば、意も詞もふつつかに、法に合はざることのみ多きを知らず、わが身に私して、かへつてよしとおもひてみづからほこり、わが美をあらはさんとて人にしめす。是亦わが身をしらざればなり。不智なること甚し。詩も歌も、古人の作わが心にかなへるもの多し。其境地の風景と、其時節の情懐に合へる詩歌、亦多し。是を吟ぜば、労せずしてわが悪しき詩歌を作るにまさりなん。是を吟詠して興をやるべし。
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『幽夢影』巻下・鏡は自ら照らす能はず鏡は自ら照らす能はず、衡は自ら權る能はず、劍は自ら擊つ能はず。
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『囲炉夜話』第百十四則・他日那樣の下場を想到すれば發憤すべし自家は是れ何等の身分なるかを知道すれば、則ち敢へて虛驕せず。 他日是れ那樣の下場なるかを想到すれば、則ち以て發憤すべし。
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