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文武訓 / 文訓上

中につきて、幼より禮を早くならふべし。禮を知らざれば、よろづのわざ法にかなはずして人道たゝず。古禮は、もろこしの古書にしるせり。わが國にも今用ひて宜しき事多し、又宜しからざる事も多し。考へて用捨すべし。小兒の時より、父母につかへ、兄をうやまひ、孝弟を行ひ、君をたふとびつかへ、賓客朋友に交り、飮食言語立居ふるまひの法を、まづ學ばしむべし。中につきて、飮食の禮つゝしむべし。禮は飮食にはじまると古人いへり。飮食ほしいまゝにむさぼり無禮なれば、いやしくして人間の法にあらず、禽獸に似たり。今世に傳はる和禮は、足利氏の時におこれり。すこぶるわが國土の宜にかなひ、古禮にそむかざること多し。小兒の輩、まづ其要用をまなぶべし。

新字:中につきて、幼より礼を早くならふべし。礼を知らざれば、よろづのわざ法にかなはずして人道たゝず。古礼は、もろこしの古書にしるせり。わが国にも今用ひて宜しき事多し、又宜しからざる事も多し。考へて用捨すべし。小児の時より、父母につかへ、兄をうやまひ、孝弟を行ひ、君をたふとびつかへ、賓客朋友に交り、飲食言語立居ふるまひの法を、まづ学ばしむべし。中につきて、飲食の礼つゝしむべし。礼は飲食にはじまると古人いへり。飲食ほしいまゝにむさぼり無礼なれば、いやしくして人間の法にあらず、禽獣に似たり。今世に伝はる和礼は、足利氏の時におこれり。すこぶるわが国土の宜にかなひ、古礼にそむかざること多し。小児の輩、まづ其要用をまなぶべし。

書き下し

中につきて、幼より礼を早くならふべし。礼を知らざれば、よろづのわざ法にかなはずして人道たたず。古礼は、もろこしの古書にしるせり。わが国にも今用ひて宜しき事多し、又宜しからざる事も多し。考へて用捨すべし。小児の時より、父母につかへ、兄をうやまひ、孝弟を行ひ、君をたふとびつかへ、賓客朋友に交り、飲食言語立居ふるまひの法を、まづ学ばしむべし。中につきて、飲食の礼つつしむべし。礼は飲食にはじまると古人いへり。飲食ほしいままにむさぼり無礼なれば、いやしくして人間の法にあらず、禽獣に似たり。今世に伝はる和礼は、足利氏の時におこれり。すこぶるわが国土の宜にかなひ、古礼にそむかざること多し。小児の輩、まづ其要用をまなぶべし。

現代語訳

その中でも、幼いうちから礼を早く習うべきです。礼を知らなければ、あらゆる行いが法にかなわず、人の道が立ちません。古い礼は中国の古書に記されています。わが国でも今用いてよいことが多く、またよくないことも多いのです。よく考えて取捨すべきです。子どもの時から、父母に仕え、兄を敬い、孝悌を行い、君を尊んで仕え、客や友と交わり、飲食・言葉づかい・立ち居振る舞いの作法を、まず学ばせるべきです。中でも飲食の礼を慎むべきです。礼は飲食から始まると古人は言いました。飲食を思うままにむさぼって無礼であれば、卑しくて人の道にかなわず、鳥獣に似ています。今の世に伝わる和礼は、足利氏の時代に起こりました。わが国の風土によくかない、古い礼にそむかないことが多いのです。子どもたちは、まずその大切なところを学ぶべきです。

解説

学びの入口として礼を置き、とりわけ飲食の作法を重く見ています。「礼は飲食に始まる」は『礼記』礼運篇に見える考えで、益軒は中国の古礼をそのまま移すのではなく、足利時代に整った日本の武家礼法のうち風土にかなうものを取捨せよと言います。食卓の振る舞いは人柄がいちばん表に出る場です。子育てでも職場の会食でも、まず食べ方と挨拶から整えることが、人との関係を築く土台になるという教えとして読めます。

この章句が説くこと

礼子育て飲食作法孝

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