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武訓 / 下・第20段

君のため、生ををしまずして戰ひ、死をかろんずるは、士卒のことなり。死をかろんぜず、かる〳〵しく戰はず、生をおもんじ、命を保つて、敵にかち、わが軍を敗らざるは、大將のことなり。故に、大將の道と、士卒の法と同じからず。大將も士卒も、敵をあなどりて、深入するは、不覺といふべし。眞の勇にあらず。長逐すれば、弱敵も、窮鼠却て猫をかむのうれへあり。弱敵には、殊におそるべし。勝ち過せば、おくれをとることあり。

新字:君のため、生ををしまずして戦ひ、死をかろんずるは、士卒のことなり。死をかろんぜず、かる〳〵しく戦はず、生をおもんじ、命を保つて、敵にかち、わが軍を敗らざるは、大将のことなり。故に、大将の道と、士卒の法と同じからず。大将も士卒も、敵をあなどりて、深入するは、不覚といふべし。真の勇にあらず。長逐すれば、弱敵も、窮鼠却て猫をかむのうれへあり。弱敵には、殊におそるべし。勝ち過せば、おくれをとることあり。

書き下し

君のため、生ををしまずして戰ひ、死をかろんずるは、士卒のことなり。死をかろんぜず、かる〳〵しく戰はず、生をおもんじ、命を保つて、敵にかち、わが軍を敗らざるは、大將のことなり。故に、大將の道と、士卒の法と同じからず。大將も士卒も、敵をあなどりて、深入するは、不覺といふべし。眞の勇にあらず。長逐すれば、弱敵も、窮鼠却て猫をかむのうれへあり。弱敵には、殊におそるべし。勝ち過せば、おくれをとることあり。

現代語訳

君のために命を惜しまずに戦い、死を軽んじるのは、士卒のことである。死を軽んぜず、軽々しく戦わず、命を重んじて身を保ち、敵に勝って自軍を敗らないのは、大将のことである。だから大将の道と士卒の法は同じではない。大将も士卒も、敵を侮って深入りするのは、不覚というべきである。真の勇ではない。長く追えば、弱い敵でも「窮鼠かえって猫をかむ」憂いがある。弱い敵には、とくに恐れるべきである。勝ちすぎれば、後れをとることがある。

解説

士卒と大将とでは、勇のあり方が違うと説く段です。士卒は命を惜しまず戦うことが務めですが、大将は軽々しく戦わず、身を保って勝ち、軍を敗らないことが務めだとされます。弱い敵を侮って深く追えば、「窮鼠かえって猫をかむ」の憂いがあると戒め、勝ちすぎへの注意も重ねています。身分による役割の違いを前提にした書き方ですが、立場ごとに求められる勇気が違うという点は現代にも通じます。現場の担当者には踏み込む勇気が、管理職には踏みとどまり全体を守る勇気が求められます。

この章句が説くこと

大将の道真の勇窮鼠深入り役割武訓

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