武訓 / 上・第4段
士たる人は、高きいやしき、弓馬劍戟の法をまなぶべし。武藝をしらざれば、戰にのぞみ、敵に對しがたし。されど、大將たる人は、まづ、兵法をならひて、次に、武藝をならふべし。武藝に專なるべからず。武藝は、たゞ、其の大略をならふべし。武藝は末なり。兵法は本なり。有司も、兵法をならふべし。將たる人、武藝のみしりて、兵法をしらざるは、本をすてゝ、末をとるなり。小身の士は、武藝を、大やうは、あまねくまなぶべし。弓馬、劍術、鎗、長刀、拔刀、擊劍、拳法、棒、水練など、皆、ならひしるべし。一事もしらざれば、變に應じがたきことあり。小身の士も、一藝を、すぐれて精しくまなぶは、一事になづみて、他藝に通じがたし。故に、一藝に專一なるべからず。然れども、もし、士の子弟など、一藝を以て、身を立てんと思ふものは、藝を專にして、くはしくまなぶべし。これ、人の師となるにたれり。かやうの人、もし、あまねく多藝にしては、一藝にくはしからず。くはしからざれば、人の師となりがたし。
新字:士たる人は、高きいやしき、弓馬剣戟の法をまなぶべし。武芸をしらざれば、戦にのぞみ、敵に対しがたし。されど、大将たる人は、まづ、兵法をならひて、次に、武芸をならふべし。武芸に専なるべからず。武芸は、たゞ、其の大略をならふべし。武芸は末なり。兵法は本なり。有司も、兵法をならふべし。将たる人、武芸のみしりて、兵法をしらざるは、本をすてゝ、末をとるなり。小身の士は、武芸を、大やうは、あまねくまなぶべし。弓馬、剣術、鎗、長刀、抜刀、撃剣、拳法、棒、水練など、皆、ならひしるべし。一事もしらざれば、変に応じがたきことあり。小身の士も、一芸を、すぐれて精しくまなぶは、一事になづみて、他芸に通じがたし。故に、一芸に専一なるべからず。然れども、もし、士の子弟など、一芸を以て、身を立てんと思ふものは、芸を専にして、くはしくまなぶべし。これ、人の師となるにたれり。かやうの人、もし、あまねく多芸にしては、一芸にくはしからず。くはしからざれば、人の師となりがたし。
書き下し
士たる人は、高きいやしき、弓馬劍戟の法をまなぶべし。武藝をしらざれば、戰にのぞみ、敵に對しがたし。されど、大將たる人は、まづ、兵法をならひて、次に、武藝をならふべし。武藝に專なるべからず。武藝は、たゞ、其の大略をならふべし。武藝は末なり。兵法は本なり。有司も、兵法をならふべし。將たる人、武藝のみしりて、兵法をしらざるは、本をすてゝ、末をとるなり。小身の士は、武藝を、大やうは、あまねくまなぶべし。弓馬、劍術、鎗、長刀、拔刀、擊劍、拳法、棒、水練など、皆、ならひしるべし。一事もしらざれば、變に應じがたきことあり。小身の士も、一藝を、すぐれて精しくまなぶは、一事になづみて、他藝に通じがたし。故に、一藝に專一なるべからず。然れども、もし、士の子弟など、一藝を以て、身を立てんと思ふものは、藝を專にして、くはしくまなぶべし。これ、人の師となるにたれり。かやうの人、もし、あまねく多藝にしては、一藝にくはしからず。くはしからざれば、人の師となりがたし。
現代語訳
士たる人は、身分が高い低いを問わず、弓・馬・剣・戟の法を学ぶべきです。武芸を知らなければ、戦に臨んで敵に対することが難しいからです。けれども大将たる人は、まず兵法を習い、次に武芸を習うべきです。武芸に専らであってはなりません。武芸はただその大略を習えばよいのです。武芸は末であり、兵法は本です。有司も兵法を習うべきです。将たる人が、武芸だけを知って兵法を知らないのは、本を捨てて末を取ることです。小身の士は、武芸をおおよそ広く学ぶべきです。弓馬・剣術・鎗・長刀・抜刀・撃剣・拳法・棒・水練など、みな習い知るべきです。一つも知らなければ、変事に応じにくいことがあります。小身の士でも、一つの芸だけをとくに詳しく学ぶのは、一つのことにこだわって他の芸に通じにくくなります。ですから一芸に専らであってはなりません。しかしながら、もし士の子弟などで、一芸によって身を立てようと思う者は、芸を専らにして詳しく学ぶべきです。そういう人は人の師となるのにふさわしいからです。このような人が、もし広く多芸にしていては、一芸に詳しくなりません。詳しくなければ、人の師となることは難しいのです。
解説
この章句が説くこと
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『文武訓』武訓上一士たる人は、高きいやしき、弓馬剣戟の法をまなぶべし。武芸を知らざれば、戦にのぞみ敵に対しがたし。されど、大将たる人は、まづ兵法をならひて、次に武芸をならふべし。武芸に専なるべからず。武芸はただ其大略をならふべし。武芸は末なり、兵法は本なり。有司も兵法をならふべし。将たる人、武芸のみ知りて兵法を知らざるは、本をすてて末をとるなり。小身の士は、武芸を大やうはあまねくまなぶべし。弓馬、剣術鎗長刀、抜刀、撃剣、拳法、棒、水練など皆ならひ知るべし。一事も知らざれば変に応じがたきことあり。小身の士も、一芸をすぐれて精しくまなぶは、一事になづみて他芸に通じがたし。故に一芸に専一なるべからず。然れども、もし士の子弟など、一芸を以て、身を立てんと思ふものは、芸を専にしてくはしくまなぶべし。これ人の師となるに足れり。かやうの人、もしあまねく多芸にしては、一芸にくはしからず、くはしからざれば人の師となりがたし。
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『武訓』上・第14段兵術は、將と士と、貴賤の位によりて、大小の用ことなり。其の位に切なることを、先、まなぶべし。主將たる人はいふに及はず、士卒の長となる者も、兵術をしらざれば、節制に應じがたし。大夫以上の人は、兵術をしるべし。兵術は、武藝の本なり。兵術をしらずして、弓馬劍戟の藝をのみ學ぶを、武學と心得るは、本をすてゝ、末をとるなり。主將たる人、兵術をしらずして、只、武藝のみを學ぶは、武學にはあらず。藝術のみを好みて、本をしらざるは、物をもてあそべば、志を喪ふの類なり。武藝は、一人に敵する術なり。兵法は、萬人に敵する術なり。
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『文武訓』武訓上一兵術は、将と士と貴賤の位によりて、大小の用ことなり、其位に切なることを先まなぶべし。主将たる人はいふに及ばず、士卒の長となる者も、兵術を知らざれば節制に応じがたし。大夫以上の人は兵術をしるべし。兵術は武芸の本なり。兵術をしらずして、弓馬剣戟の芸をのみ学ぶを武学と心得るは、本をすてて末をとるなり。主将たる人、兵術を知らずして、只武芸のみを学ぶは武学にはあらず。芸術のみを好みて本を知らざるは、物をもてあそべば志を喪ふの類なり。武芸は一人に敵する術なり、兵法は万人に敵する術なり。
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『武訓』上・第3段武士たる人は、武藝をしらずんばあるべからず。弓馬、刀劍、鎗、長刀、鳥銃、拳法なども、其の法をならはずしては、戰にのぞみて、功をなしがたし。中について、弓馬を尤まなぶべし。弓馬の二は、ことさら學ばずしては、ちからつよしとても、妄に其の術行はれず。他の武藝は、よく習ひても、治世に生れては、一生の間、一度も、其わざ用に立たざることあり。弓馬は、治世にても、日用のことなり。殊に、馬は日々のる物なれば、よく學ぶべし。
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『文武訓』武訓上一武士たる人は、武芸を知らずんばあるべからず。弓馬、刀剣、鎗長刀、鳥銃、拳法なども、其法をならはずしては、戦にのぞみて功をなしがたし。中について、弓馬を尤まなぶべし。弓馬の二は、ことさら学ばずしては、ちからつよしとても、妄に其術行はれず。他の武芸はよく習ひても、治世に生れては、一生の間一度も其わざ用に立たざることあり。弓馬は、治世にても日用のことなり。殊に馬は日々乗る物なれば、よく学ぶべし。
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『文武訓』武訓上一甲冑の著やう、旗指物の制法、馬上にて刀を抜き鎗をつかひ、敵と組み合の法、或は不意に敵に出合ひたる時、敵に斬られず敵に勝つの法、凡匹夫の勇のはたらき、刀剣、及び馬芸につきてのわざ、又は戦場にあらずして、時の変に応ずる術も、士たる人習ひ知るべし。かやうの術を教ふる師あり、書あり、ならふべし。
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