武人訓抄録 / 速きを欲すれば達せず
一武書を讀み兵藝を慣ふに古今の通弊あり、其不好ところのものは固に怠忽して成ところなし、其好ところのものはまた貪多して偏ところあり、往々其始を未察して頓に其終を探らむとし、此を未究して全く彼に志あり、玆をもて常に奔逐の勞ありといへども從容の樂なし、是また深く信じ厚く勤め、自久しうして不厭ば、彼怠忽して所成なきものに異らむ、孔子曰、欲速則不達とは正に此謂なり、まことによくこれを鑒て、もつてこれに反する事あれば、則志一に決す、然うして後精を致して不移ば、所讀の書文意接連し、所慣の藝臨機應變ならん、
新字:一武書を読み兵芸を慣ふに古今の通弊あり、其不好ところのものは固に怠忽して成ところなし、其好ところのものはまた貪多して偏ところあり、往々其始を未察して頓に其終を探らむとし、此を未究して全く彼に志あり、玆をもて常に奔逐の労ありといへども従容の楽なし、是また深く信じ厚く勤め、自久しうして不厭ば、彼怠忽して所成なきものに異らむ、孔子曰、欲速則不達とは正に此謂なり、まことによくこれを鑒て、もつてこれに反する事あれば、則志一に決す、然うして後精を致して不移ば、所読の書文意接連し、所慣の芸臨機応変ならん、
書き下し
一武書を讀み兵藝を慣ふに古今の通弊あり、其不好ところのものは固に怠忽して成ところなし、其好ところのものはまた貪多して偏ところあり、往々其始を未察して頓に其終を探らむとし、此を未究して全く彼に志あり、玆をもて常に奔逐の勞ありといへども從容の樂なし、是また深く信じ厚く勤め、自久しうして不厭ば、彼怠忽して所成なきものに異らむ、孔子曰、欲速則不達とは正に此謂なり、まことによくこれを鑒て、もつてこれに反する事あれば、則志一に決す、然うして後精を致して不移ば、所讀の書文意接連し、所慣の藝臨機應變ならん、
現代語訳
武書を読み、兵芸を習うには、古今を通じた弊害があります。好まないものは軽んじて何も成さず、好むものはまた欲張って偏りが出ます。しばしばその始めをまだ察しないのに、にわかにその終わりを探ろうとし、これをまだ究めないのに、すっかり彼に志を移します。そのため常に追い回す苦労はあっても、落ち着いた楽しみがありません。ここで深く信じ、厚く勤め、長く続けて飽きなければ、怠って成るところのない者とは異なるでしょう。孔子の「速きを欲すれば則ち達せず」とは、まさにこのことです。まことにこれを鑑みて、これに反することがあれば、志は一つに決まります。そうして後に精を尽くして移らなければ、読む書は文意がつながり、習う芸は機に臨んで変に応じるでしょう。
解説
この章句が説くこと
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『武人訓抄録』・志を一にして多岐を避ける一止戈學問の法、一なる時は達す、多岐なる時は迷ふ、今世の學者皆もて神武の正道を得る事不能ものは、其多岐なるが爲なり、無益の空文に驚せ、無益の異術に遊び、旁徑他岐にして、志を用る事專ならず、國を經し民を保するの切要に至つては是を度外に附す、習學の術如斯ならば、たとひ數十年の漸功ありとも亦嬰兒の遊戲を爲がごし、學者志を一にして他岐に亘るべからず、
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『武人訓抄録』・知るべきと知らぬでよい事一神武講習の道かならず不知ば有べからざる者あり、かならず不知ところの者あり、脩己治人の道、攻鋭守難の術は、かならず不知ば有べからざるものなり、其餘進で賊を討ずるに益なく、退て民を保ずるに利なきものは、かならず不知といへども又さらに害なし、をよそ時日方位器用故實の類は、職者の事業にして武將の先務にはあらず、曾子曰、籩豆之事則有司存と、神武の指も亦しかり、技用之事則職者在、總て藝士職者の關る事をば、皆其道の明達に附して學者奪ふべからず、今の小子習學の法を知らず、區々として心を衆技の細事に止む、大に不可なり、學者諒察せよ、
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