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武人訓抄録 / 武道を廃する者に近づくな

一猫の鼠を不捕と、鷹の鳥を不搏とは、世俗無能なりと譏ども、將の德を不脩と、士の藝を不慣とにおゐては、衆人いさゝかも怪しとせず、是何のあやまちぞや、弓馬の家に生るゝもの、須臾も武道を廢して脩せずんば、まさしく甲冑をもて縕衣に代、劒刀をもて稱錘に換とするの、黷心なりと察すべし、如斯の擧動ある者には、丈夫席を同うし談を均うして、神器を汚さしむる事なかれ、士人の武道を忘れて存せむとするは、游魚の水中を離れて活らん事を需るがごし、何をもつて立べけむや、學者此類ひの輩に親むべからず、

新字:一猫の鼠を不捕と、鷹の鳥を不搏とは、世俗無能なりと譏ども、将の徳を不脩と、士の芸を不慣とにおゐては、衆人いさゝかも怪しとせず、是何のあやまちぞや、弓馬の家に生るゝもの、須臾も武道を廃して脩せずんば、まさしく甲冑をもて縕衣に代、劒刀をもて称錘に換とするの、黷心なりと察すべし、如斯の挙動ある者には、丈夫席を同うし談を均うして、神器を汚さしむる事なかれ、士人の武道を忘れて存せむとするは、游魚の水中を離れて活らん事を需るがごし、何をもつて立べけむや、学者此類ひの輩に親むべからず、

書き下し

一猫の鼠を不捕と、鷹の鳥を不搏とは、世俗無能なりと譏ども、將の德を不脩と、士の藝を不慣とにおゐては、衆人いさゝかも怪しとせず、是何のあやまちぞや、弓馬の家に生るゝもの、須臾も武道を廢して脩せずんば、まさしく甲冑をもて縕衣に代、劒刀をもて稱錘に換とするの、黷心なりと察すべし、如斯の擧動ある者には、丈夫席を同うし談を均うして、神器を汚さしむる事なかれ、士人の武道を忘れて存せむとするは、游魚の水中を離れて活らん事を需るがごし、何をもつて立べけむや、學者此類ひの輩に親むべからず、

現代語訳

猫が鼠を捕らず、鷹が鳥を撃たないのを、世間は無能だとそしりますが、将が徳を修めず、士が芸に習熟していないことについては、人々は少しも怪しみません。これは何という誤りでしょうか。弓馬の家に生まれた者が、少しの間でも武道を廃して修めないなら、甲冑を粗末な綿入れに替え、剣や刀を秤の分銅に換えるような、心を汚す行いだと察しなさい。このような振る舞いの者とは、立派な男子は席を同じくして語り合い、神器を汚させてはなりません。士人が武道を忘れて存続しようとするのは、泳ぐ魚が水を離れて生きようとするようなものです。何をもって立つことができるでしょうか。学者はこの類の輩に親しんではなりません。

解説

猫が鼠を捕らなければ無能と言うのに、将が徳を修めず士が芸に慣れないことは誰も怪しまない、という矛盾を突く章です。武道を捨てて地位だけ保とうとするのは、魚が水を離れて生きようとするのと同じだとします。現代でも、管理職が専門性や現場感覚を失ったまま肩書に安住する場面があります。そうした状態を当人も周囲も怪しまなくなったとき、組織は弱ります。自分が水の中にいるかを確かめ、人も実力に忠実な集団に身を置くことが大切です。

この章句が説くこと

武道将の徳士の芸実力水を離れた魚交友

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