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武学啓蒙 / 論・二君に仕えぬ訓と儒書の裏づけ

按ずるに、論語に、あやふくして、持たず、くつがへりても、扶ずんば、相は、いらぬものと、又危々見ては、命を授くと、孝經に、君に事れば、進て、忠を盡さんことを思ひ、退て、過を補んことを思ひ、君の美ことには、したがひ、君の惡きことは、匡し救ふと、古語に、君は君たらずとも、臣は臣たらずんば、あるべからずと、又論語に、君につかへては、欺くことなく、これを犯せと、又比干の言に、君あやまちありて、諫めざるは、忠にあらず、死を畏れて、いわざるは勇にあらずと、孟子の言に、難を、君に責るは、恭なり、善を、つらね、邪を、ふせぐは、敬なり、吾君、よくせずなどいふは、賊なりと、又大人、よく君の心の非を格すと、論語に、君に事るには、禮を盡すと、又孔子、魯國の、あしきことは、あげず、國惡をいむ禮なりとぞ、(これらの解、予が、向君須知の書に、くはしく、のせたれば、こゝにはことゞ〱く、論ぜず、)されば、本條の言、一々皆聖旨に符へり、只二君に仕るを恥る一段、斯文家に肯せざるよしなり、されど、此訓の、本邦武門に、行るゝ、年久し、其故を、謹考るに、元來、本邦は、日月の正途に、あたり、八方の最上に居し、五穀萬邦より豐に、人民、義に勇む性あり、故に西外國より、神仙の宅する所と羨み、或は君子國と贊せり、顧に、萬歲の末まで、一姓辰居の尊さにありて、異域、堯舜禹の大道は、

新字:按ずるに、論語に、あやふくして、持たず、くつがへりても、扶ずんば、相は、いらぬものと、又危々見ては、命を授くと、孝経に、君に事れば、進て、忠を尽さんことを思ひ、退て、過を補んことを思ひ、君の美ことには、したがひ、君の悪きことは、匡し救ふと、古語に、君は君たらずとも、臣は臣たらずんば、あるべからずと、又論語に、君につかへては、欺くことなく、これを犯せと、又比干の言に、君あやまちありて、諫めざるは、忠にあらず、死を畏れて、いわざるは勇にあらずと、孟子の言に、難を、君に責るは、恭なり、善を、つらね、邪を、ふせぐは、敬なり、吾君、よくせずなどいふは、賊なりと、又大人、よく君の心の非を格すと、論語に、君に事るには、礼を尽すと、又孔子、魯国の、あしきことは、あげず、国悪をいむ礼なりとぞ、(これらの解、予が、向君須知の書に、くはしく、のせたれば、こゝにはことゞ〱く、論ぜず、)されば、本条の言、一々皆聖旨に符へり、只二君に仕るを恥る一段、斯文家に肯せざるよしなり、されど、此訓の、本邦武門に、行るゝ、年久し、其故を、謹考るに、元来、本邦は、日月の正途に、あたり、八方の最上に居し、五穀万邦より豊に、人民、義に勇む性あり、故に西外国より、神仙の宅する所と羨み、或は君子国と賛せり、顧に、万歳の末まで、一姓辰居の尊さにありて、異域、堯舜禹の大道は、

書き下し

按ずるに、論語に、あやふくして、持たず、くつがへりても、扶ずんば、相は、いらぬものと、又危々見ては、命を授くと、孝經に、君に事れば、進て、忠を盡さんことを思ひ、退て、過を補んことを思ひ、君の美ことには、したがひ、君の惡きことは、匡し救ふと、古語に、君は君たらずとも、臣は臣たらずんば、あるべからずと、又論語に、君につかへては、欺くことなく、これを犯せと、又比干の言に、君あやまちありて、諫めざるは、忠にあらず、死を畏れて、いわざるは勇にあらずと、孟子の言に、難を、君に責るは、恭なり、善を、つらね、邪を、ふせぐは、敬なり、吾君、よくせずなどいふは、賊なりと、又大人、よく君の心の非を格すと、論語に、君に事るには、禮を盡すと、又孔子、魯國の、あしきことは、あげず、國惡をいむ禮なりとぞ、(これらの解、予が、向君須知の書に、くはしく、のせたれば、こゝにはことゞ〱く、論ぜず、)されば、本條の言、一々皆聖旨に符へり、只二君に仕るを恥る一段、斯文家に肯せざるよしなり、されど、此訓の、本邦武門に、行るゝ、年久し、其故を、謹考るに、元來、本邦は、日月の正途に、あたり、八方の最上に居し、五穀萬邦より豐に、人民、義に勇む性あり、故に西外國より、神仙の宅する所と羨み、或は君子國と贊せり、顧に、萬歲の末まで、一姓辰居の尊さにありて、異域、堯舜禹の大道は、

現代語訳

考えてみますと、論語に、「危うくても支えず、ひっくり返っても助けないなら、補佐の者は要らない」とあり、また「危うきを見ては命を授く」とあります。孝経には、「君に仕えては、進んでは忠を尽くすことを思い、退いては過ちを補うことを思い、君の美点には従い、君の悪いところは正し救う」とあります。古語に、「君が君たらずとも、臣は臣たらずんばあるべからず」とあり、また論語に、「君に仕えては、欺くことなく、これを犯して諫めよ」とあり、また比干の言に、「君に過ちがあって諫めないのは忠ではない。死を恐れて言わないのは勇ではない」とあり、孟子の言に、「難しいことを君に求めるのは恭である。善を並べ、邪を防ぐのは敬である。わが君はよくできないなどと言うのは賊である」とあり、また「大人は君の心の非を正す」とあり、論語に、「君に仕えるには礼を尽くす」とあり、また孔子は魯国の悪いことを挙げませんでした。国の悪を口にしないのは礼だというのです。(これらの解釈は、私の『向君須知』の書にくわしく載せましたので、ここでは詳しく論じません。)そうしますと、前の条の言葉は、一つ一つみな聖人の趣旨にかなっています。ただ、二君に仕えるのを恥とする一段だけは、儒者の家では承服しないとのことです。しかし、この訓がわが国の武門で行われて年久しく、その理由を謹んで考えますと、もともとわが国は日月の正しい道筋にあたり、八方の最上に位置し、五穀は万国より豊かで、人民は義に勇む性質があります。そのため西の外国から、神仙の住む所と羨まれ、あるいは君子国と賞賛されました。顧みるに、万歳の末まで一つの姓の天子がいらっしゃる尊さにあり、異国の、堯・舜・禹の大道は、

解説

前の条の忠義の訓を、著者が論語・孝経・孟子などの言葉で裏づける注釈です。君の過ちを諫めること、君の美点に従い悪を正すこと、国の悪を外に言わないことなどが、儒書にも根拠のある教えとして示されます。二君に仕えぬ点だけは儒者が肯んじないと断ったうえで、わが国の事情から説明しようとします。国のあり方を誇る言い方は当時の見方として読み、現代では、組織の方針を決める前に先例や根拠を調べ、異論にも筋道を立てて説明する姿勢を学べます。
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人生を、一行の式にしてみた。

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この章句が説くこと

『武学啓蒙』力丸東山諫言論語孝経孟子

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