武治提要 / 賞罰・第4段
賞罰を嚴重にするは、たとへば活潑のけやけき藥を飮がごとし、的中するときは大利あり、的中せざるときは大害あり。故に吾に得る處あらずして、人の糟粕を咬て、以て嚴重をなすべからず。然れども嚴重を以てせざるときは、戰國にあつて國を廣し、兵を强して、社稷を全することを得べからず。武將の勤力此間にあり。賞物亦三等あり。言を以て賞し、物を以て賞し、地を以て賞すこれ也。一等各上中下を具す。故に賞物亦九等たり。地を以てするは功の上なり、物を以てするはこれに次、言を以てするは又これに次り。凡武將剛臆褒貶の言辭は、平日の政令にして、武俗を化するの本なり。其かゝる處甚重し。夫人々の好惡、其趣意同しからざるを以て、毀譽の批判必ず同じからず。これを一決すること、武將の批判にあり。
新字:賞罰を厳重にするは、たとへば活溌のけやけき薬を飲がごとし、的中するときは大利あり、的中せざるときは大害あり。故に吾に得る処あらずして、人の糟粕を咬て、以て厳重をなすべからず。然れども厳重を以てせざるときは、戦国にあつて国を広し、兵を強して、社稷を全することを得べからず。武将の勤力此間にあり。賞物亦三等あり。言を以て賞し、物を以て賞し、地を以て賞すこれ也。一等各上中下を具す。故に賞物亦九等たり。地を以てするは功の上なり、物を以てするはこれに次、言を以てするは又これに次り。凡武将剛臆褒貶の言辞は、平日の政令にして、武俗を化するの本なり。其かゝる処甚重し。夫人々の好悪、其趣意同しからざるを以て、毀誉の批判必ず同じからず。これを一決すること、武将の批判にあり。
書き下し
賞罰を嚴重にするは、たとへば活潑のけやけき藥を飮がごとし、的中するときは大利あり、的中せざるときは大害あり。故に吾に得る處あらずして、人の糟粕を咬て、以て嚴重をなすべからず。然れども嚴重を以てせざるときは、戰國にあつて國を廣し、兵を强して、社稷を全することを得べからず。武將の勤力此間にあり。賞物亦三等あり。言を以て賞し、物を以て賞し、地を以て賞すこれ也。一等各上中下を具す。故に賞物亦九等たり。地を以てするは功の上なり、物を以てするはこれに次、言を以てするは又これに次り。凡武將剛臆褒貶の言辭は、平日の政令にして、武俗を化するの本なり。其かゝる處甚重し。夫人々の好惡、其趣意同しからざるを以て、毀譽の批判必ず同じからず。これを一決すること、武將の批判にあり。
現代語訳
賞罰を厳重にするのは、たとえば勢いの激しい劇薬を飲むようなもので、的中すれば大きな利があり、的中しなければ大きな害があります。だから、自分で会得したところがないのに、人の言ったことの糟粕(かす)をかじって厳重にしてはなりません。しかし、厳重にしなければ、戦国の世にあって国を広げ、兵を強くして社稷(国家)を全うすることはできません。武将の務めはこの間にあります。賞には三つの等級があります。言葉で賞する、物で賞する、地(領地)で賞する、の三つです。それぞれに上中下があるので、賞は九等になります。地で賞するのが功の最上で、物がそれに次ぎ、言葉がさらにその次です。およそ武将が剛と臆を褒めたり貶したりする言葉は、平生の政令であり、武士の風俗を教化する根本です。そこに懸かるものは非常に重いのです。人の好き嫌いは趣意が同じでないので、毀誉の批判も必ず同じにはなりません。これを一つに決めるのは、武将の批判にかかっています。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『武治提要』賞罰・第3段武將三軍を帥て賞すべきもの三、罰すべきもの三。一に云く忠、二に云義、三に云く勇、これ賞すべきものなり。一に云く不忠、二に云不義、三に云く不勇、これ乃罰すべきものなり。而して三等各上中下の三等を具、賞罰の目併て一十八なり。たとへ上功といへども、下等なるときは、下功の上等に或は下るべきことあり、或は中等に配すべきものあり。詳に其情實を盡すにあり。一たびも功に的中せざるの賞あるときは、人これを恨、一たびも罪に的中せざるの刑あるときは、人これを怒る。人恨人怒ときは、大切に臨て其指揮に屬せず。これ大敗の本たり。夙夜に思にあらずんば、衆情を得ること叶べからず。凡君君たらずとも、臣以て臣たらずんばあるべからずと云ものは、聖人人を敎の道にして、澆薄の人情を說にあらず。君の臣を視ること土芥のごときは、臣の君を視ること冠讎のごとしと云は、孟軻戰國の情を說ところなり。武國の俗に於て尤も斟酌せずんばあるべからず。
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『韓非子』初見秦第一今秦は号令を出だして賞罰を行ひ、功有ると功無きと相事とす。其の父母の懐衽の中より出でて、生まれて未だ嘗て寇を見ざるのみ。戦ひを聞けば、足を頓し徒裼し、白刃を犯し、鑪炭を踏み、死を前に断ずる者皆是れなり。夫れ死を断ずると生を断ずるとは同じからず、而るに民之を為す者は、是れ奮死を貴べばなり。
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『韓非子』姦劫弒臣第十四人焉んぞ能く安利の道を去りて危害の処に就かんや。国を治むること此くの若く其れ過てり。而して上、下の姦無く、吏の法を奉ずることを欲するも、其の得べからざること亦明らかなり。故に左右、貞信の以て安利を得べからざるを知れば、必ず曰く、「我忠信を以て上に事へ、功労を積みて安きを求むるは、是れ猶盲にして黒白の情を知らんと欲するがごとし、必ず幾からず。若し道を以て化し正理を行ひ、富貴に趨かず、上に事へて安きを求むるは、是れ猶聾にして清濁の声を審らかにせんとするがごとし、愈幾からず。二者以て安きを得べからずんば、我安んぞ能く相比周し、主上を蔽ひ、姦私を為して以て重人に適すること無からんや」と。此れ必ず人主の義を顧みず。其の百官の吏も亦方正の以て安きを得べからざるを知れば、必ず曰く、「我清廉を以て上に事へて安きを求むるは、規矩無くして方円を為さんと欲するが若し、必ず幾からず。若し法を守り朋党せずして官を治めて安きを求むるは、是れ猶足を以て頂を搔くがごとし、愈幾からず。二者以て安きを得べからずんば、能く法を廃し私を行ひて以て重人に適すること無からんや」と。
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