武治提要 / 省察・第3段
國家艸業の搠、淳朴にして治るといへども、守成久しきに及ては、淸素の風漸にして衰、民勞し、人怨、竟に四海の大患を起す。可否美惡のうつること、俄頃に黑白を變ずるがごときときは、人々これを曉といへども、漸にして盛衰の變をなすものは、人これを不知、これ省察の怠より生ず。然らば國家の武治、皆舊禮古典を不差して用ゆるときは、騷亂あるべからざるに似て、艸業質朴の禮典規制は必ず治世の情にこれを不好。爰を以て君臣いつとなく潤色して、竟に花奢に至り、國家財用盡、其害の生ずるに及て、俄に驚き、淳朴に歸んとすれども、一旦に歸ること不叶、倭漢皆然らずと云ことなし。故に艸昧の風俗を末世に至て直に可用と云は、理あつて行に及がたきの道なり。此故に只省察を以て世々の戒愼となすときは、不可の極に至るべからず。
新字:国家艸業の搠、淳朴にして治るといへども、守成久しきに及ては、清素の風漸にして衰、民労し、人怨、竟に四海の大患を起す。可否美悪のうつること、俄頃に黒白を変ずるがごときときは、人々これを暁といへども、漸にして盛衰の変をなすものは、人これを不知、これ省察の怠より生ず。然らば国家の武治、皆旧礼古典を不差して用ゆるときは、騷乱あるべからざるに似て、艸業質朴の礼典規制は必ず治世の情にこれを不好。爰を以て君臣いつとなく潤色して、竟に花奢に至り、国家財用尽、其害の生ずるに及て、俄に驚き、淳朴に帰んとすれども、一旦に帰ること不叶、倭漢皆然らずと云ことなし。故に艸昧の風俗を末世に至て直に可用と云は、理あつて行に及がたきの道なり。此故に只省察を以て世々の戒慎となすときは、不可の極に至るべからず。
書き下し
國家艸業の搠、淳朴にして治るといへども、守成久しきに及ては、淸素の風漸にして衰、民勞し、人怨、竟に四海の大患を起す。可否美惡のうつること、俄頃に黑白を變ずるがごときときは、人々これを曉といへども、漸にして盛衰の變をなすものは、人これを不知、これ省察の怠より生ず。然らば國家の武治、皆舊禮古典を不差して用ゆるときは、騷亂あるべからざるに似て、艸業質朴の禮典規制は必ず治世の情にこれを不好。爰を以て君臣いつとなく潤色して、竟に花奢に至り、國家財用盡、其害の生ずるに及て、俄に驚き、淳朴に歸んとすれども、一旦に歸ること不叶、倭漢皆然らずと云ことなし。故に艸昧の風俗を末世に至て直に可用と云は、理あつて行に及がたきの道なり。此故に只省察を以て世々の戒愼となすときは、不可の極に至るべからず。
現代語訳
国家の草創期は、素朴で質素なままでよく治まりますが、守成の時代が長く続くと、清く質素な風が次第に衰え、民は疲れ、人は恨み、ついには天下の大きな患いが起こります。是非や善悪が急に白黒入れ替わるときは、人々はそれに気づきますが、少しずつ盛衰が変わっていくときは、人は気づきません。これは省察を怠るところから生じます。それなら、国家の武治がみな古い礼や典章を違えずに用いれば、騒乱は起こらないように思えますが、草創期の素朴な礼典や規則は、治まった世の人情には必ず好まれません。そのため君臣はいつとなく飾り立て、ついには華美と奢りに至り、国家の財用が尽きて、害が出てから急に驚き、素朴に戻ろうとしても、一度に戻ることはできません。日本も中国も、そうでないことはありません。だから、草創期の風俗を末世になって直ちに用いよと言うのは、理屈はあっても実行は難しい道です。ただ省察を世々の戒めとすれば、取り返しのつかない極みには至らないでしょう。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『武治提要』風化・第3段凡文質彬々たるは、君子の德容にして、外國の聖世といへども、天下皆彬々たることを得べからず。若彬々たることを欲して、これを令せば、天下皆花麗を俗となすに至るべし。凡質朴にして、稍禮容に疎なるは、武國武門の俗なり。これを措て或は禮容の盛んならんことを欲じ、或は事物に文章の美あらんことを期するものは、武德廢弛の機なり。つゝしまずんばあるべからず。
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『武治提要』省察・第1段省察は武德を敷の樞要にして、武門萬機の政令、法律爰にあづからずと云ことなし。往を省るといまだ審ならざるときは、來を察すること亦中り難し。故に往を省るは來を察するが爲なり。或は專ら省を用ゆるものあり、或は專ら察をなすものあり、これ其事物によるといへども、吾常に省察の中間にあつて、古往今來をふまえざるときは、眞の武治を得べからざるなり。
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『武治提要』齊家・第3段宮室、衣服、食物、及日用の器物、皆これ齊家の用なり。武門の事物皆易簡清素を要とす。禮なりと云て、文章を事とするものは、武門の要旨を失するの端なり。瓊矛の神武其威衰て、王朝德の廢せるものは、蓋し外國の禮をうつし玉へるに權輿せる歟。武門に於て深く不可不愼。況や後宮に寵姬多く、或は歌臺に宴遊の淫行を盛にするをや。武門に如此の佚樂あるものは、其禍、衆蝗の春田に滿るに超たり。英操の發せんとするもの、これが爲にくじく。最懼るべきの甚しきなり。
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『秘本玉くしげ』上 少しづつ質素へ然れ共、ものはかぎり有て、のぼりきはまる時は又おのづから降るとなれば、いつぞは又本へかへる時節も有べきに、されど此世上の奢りなどの、左様に自然と質素の方へかへるといふことは、まづは何ぞ変なる事などのなくてはかへりがたきことなれば、その変の有て自然とかへるを、安閑として待居るべきにもあらず。されば上にたつ人は、随分なるべきだけは工夫をめぐらして、自他奢の長ぜざるやうに、少しづつにても質素の方へかへるやうにはからひ玉ふべき也。すこしづつにても質素の方にかへりて長ずることなければ、起るべき変事もおこらずして、長久に無事なるべし。さてそのはからひはいかにといふに、右に申せる如く、此事は厳しき命令ばかりにてはとても直りがたきことにて、ただ面面自然とたしなむ心になりて、おのづからにするやうにはからふべき事也。
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『武治提要』省察・第2段所謂後の今をみること、猶今の古をみるがごとしとは、墨客の感懷にして、其實を取用ゆるときは、治平の警戒なり。星霜代謝し、榮枯地を代るといへども、人情の好惡更に古今なし。只過るものは、其跡著明なるが故に、其可否見へ易く、來る者は未だ跡なきがゆゑに、其得失きわめがたし。省察の力行尤も此間にあり。
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