武備和訓 / 卷二・鎧の実用と、機関に頼る軽薄さ
一夫をよく治るの最初なり、かくのごとく心得て、さのみ鐵を厚く鍛ひ、身を勞すべからず候、其上近世は鐵砲ありて、鐵壁をも難しとせざれば、無楯の鎧も用るに不足、されども、將は必着替の鎧あれば、一概にはおもふべからず、城攻、竹束裏、虎口まへを働く時は、ためしの鎧の重く札よきを用べし、鍪は猶更重きを以能とせり、又戰陣には、薄鐵の鎧を用べし、行軍等には、革の鎧も又可ならん、鎧重くして馬憊る、時は詮なし、當世兵家者流に、將の鎧に、胴を四ッに割たるたゝみ具足を用る事あり、大に不可然、たゝみ具足は、單騎の卒簡易の爲に用るもの也、同じくは射向に蝶つがひして、二ッに割るさへ不快、其堅からん事を要せば、唯一枚ならんこそ能からめ、簡易を採りて、主用を失はゞ、鐵を用ん事も又畧すべきか、又がつたり請筒等を、機關にして、自手を以て指物、母衣等をも施しさすごとく巧作するなど、皆主を捨て用を取もの也、是等は諺にいふ畠水練の類なるべし、疊鎧、がつたり等のからくりのごときは、
新字:一夫をよく治るの最初なり、かくのごとく心得て、さのみ鉄を厚く鍛ひ、身を労すべからず候、其上近世は鉄砲ありて、鉄壁をも難しとせざれば、無楯の鎧も用るに不足、されども、将は必着替の鎧あれば、一概にはおもふべからず、城攻、竹束裏、虎口まへを働く時は、ためしの鎧の重く札よきを用べし、鍪は猶更重きを以能とせり、又戦陣には、薄鉄の鎧を用べし、行軍等には、革の鎧も又可ならん、鎧重くして馬憊る、時は詮なし、当世兵家者流に、将の鎧に、胴を四ッに割たるたゝみ具足を用る事あり、大に不可然、たゝみ具足は、単騎の卒簡易の為に用るもの也、同じくは射向に蝶つがひして、二ッに割るさへ不快、其堅からん事を要せば、唯一枚ならんこそ能からめ、簡易を採りて、主用を失はゞ、鉄を用ん事も又略すべきか、又がつたり請筒等を、機関にして、自手を以て指物、母衣等をも施しさすごとく巧作するなど、皆主を捨て用を取もの也、是等は諺にいふ畠水練の類なるべし、畳鎧、がつたり等のからくりのごときは、
書き下し
一夫をよく治るの最初なり、かくのごとく心得て、さのみ鐵を厚く鍛ひ、身を勞すべからず候、其上近世は鐵砲ありて、鐵壁をも難しとせざれば、無楯の鎧も用るに不足、されども、將は必着替の鎧あれば、一概にはおもふべからず、城攻、竹束裏、虎口まへを働く時は、ためしの鎧の重く札よきを用べし、鍪は猶更重きを以能とせり、又戰陣には、薄鐵の鎧を用べし、行軍等には、革の鎧も又可ならん、鎧重くして馬憊る、時は詮なし、當世兵家者流に、將の鎧に、胴を四ッに割たるたゝみ具足を用る事あり、大に不可然、たゝみ具足は、單騎の卒簡易の爲に用るもの也、同じくは射向に蝶つがひして、二ッに割るさへ不快、其堅からん事を要せば、唯一枚ならんこそ能からめ、簡易を採りて、主用を失はゞ、鐵を用ん事も又畧すべきか、又がつたり請筒等を、機關にして、自手を以て指物、母衣等をも施しさすごとく巧作するなど、皆主を捨て用を取もの也、是等は諺にいふ畠水練の類なるべし、疊鎧、がつたり等のからくりのごときは、
現代語訳
(前章の続きです)これが、一人(の兵)をよく治める最初のことです。このように心得て、それほど鉄を厚く鍛え、身を労してはいけません。そのうえ近世は鉄砲があって、鉄の壁をも難しとしないので、楯のない鎧も用いるに足りません。けれども将は必ず着替えの鎧があるので、一概に考えてはなりません。城攻めで竹束の裏や虎口(出入り口)の前で働くときは、試し(弾丸を試した)の鎧の重く札のよいものを用いるべきです。兜はなおさら重いのがよいとされます。また戦陣では薄い鉄の鎧を用いるべきです。行軍などでは革の鎧もまたよいでしょう。鎧が重くて馬が疲れるときは、意味がありません。当世の兵家の者で、将の鎧に、胴を四つに割った畳み具足を用いることがありますが、大いに不可です。畳み具足は、単騎の卒が簡易のために用いるものです。同じことなら射向(左側)に蝶番をつけて二つに割るのさえ不快で、その堅さを求めるなら、ただ一枚であるのがよいでしょう。簡易を取って主な用を失うなら、鉄を用いることも略してよいことになってしまいます。また、がったり(仕掛け)や請筒などを機関にして、自分の手で指物や母衣なども施し差すように巧みに作るなどは、みな主を捨てて用を取るものです。これらは、諺にいう畠水練(畑での水泳の練習)の類でしょう。畳み鎧、がったりなどのからくりのようなものは、
解説

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