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正法眼蔵随聞記 / 巻五

一日示して云く、俗人の云く、寶はよく身を害する怨なり、昔も是れあり、今も是れ有りと、云ふこゝろは、昔し一人の俗人あり、一人の美女をもてり、時に威勢ある人是を請ふ、彼の夫是を惜む、終に兵を起して其家を圍めり、既に奪ひ取られんとする時、夫か云く、我れ汝が爲に命を失ふと、女が云く、我れも夫の爲に命を失はんと云て、高樓より落て死す、そのゝち彼の夫うちもらされて、後に物語りにせしとなり、

新字:一日示して云く、俗人の云く、宝はよく身を害する怨なり、昔も是れあり、今も是れ有りと、云ふこゝろは、昔し一人の俗人あり、一人の美女をもてり、時に威勢ある人是を請ふ、彼の夫是を惜む、終に兵を起して其家を囲めり、既に奪ひ取られんとする時、夫か云く、我れ汝が為に命を失ふと、女が云く、我れも夫の為に命を失はんと云て、高楼より落て死す、そのゝち彼の夫うちもらされて、後に物語りにせしとなり、

書き下し

一日示して云く、俗人の云く、宝はよく身を害する怨なり、昔も是れあり、今も是れ有りと、云ふこゝろは、昔し一人の俗人あり、一人の美女をもてり、時に威勢ある人是を請ふ、彼の夫是を惜む、終に兵を起して其家を囲めり、既に奪ひ取られんとする時、夫か云く、我れ汝が為に命を失ふと、女が云く、我れも夫の為に命を失はんと云て、高楼より落て死す、そのゝち彼の夫うちもらされて、後に物語りにせしとなり、

現代語訳

ある日示して言われた。俗人は言う、宝はよく身を害する仇である、昔もこれがあり、今もこれがある、と。言う心は、昔ひとりの俗人があり、ひとりの美しい女を持っていた。時に威勢のある人がこれを求めた。その夫はこれを惜しんだ。ついに兵を起こしてその家を囲んだ。すでに奪い取られようとする時、夫が言った。わたしはおまえのために命を失う、と。女が言った。わたしも夫のために命を失おう、と言って、高い楼から落ちて死んだ。その後、その夫は討ちもらされて、後に物語として語られたのだという。

解説

宝が仇になるという言葉を、財ではなく人をめぐる話で示す。惜しんだために兵が来て、女は死に、夫だけが生き残った。愛情の物語としてではなく、持つことが害を招いた例として置かれており、貧を説く一連の条の中で、対象が物に限らないことを示している。

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