正法眼蔵随聞記 / 巻三
次でに示して云く、學道の人は先須く貧なるべし、財おほければ必ず其志を失ふ、在家學道のもの、猶ほ財寶にまとはり、居處をむさぼり、眷屬に交はれば、設ひ其の志しありと云へとも、障道の因緣多し、古來俗人の參學する多けれども、其の中によしと云ふも猶を僧には及ばす、僧は三衣一鉢の外は財寶をもたず、居處を思はず、衣食を貪らざる間だ、一向に學道すれば分分に皆得益あるなり、其のゆへは貧なるが道に親きなり、
新字:次でに示して云く、学道の人は先須く貧なるべし、財おほければ必ず其志を失ふ、在家学道のもの、猶ほ財宝にまとはり、居処をむさぼり、眷属に交はれば、設ひ其の志しありと云へとも、障道の因縁多し、古来俗人の参学する多けれども、其の中によしと云ふも猶を僧には及ばす、僧は三衣一鉢の外は財宝をもたず、居処を思はず、衣食を貪らざる間だ、一向に学道すれば分分に皆得益あるなり、其のゆへは貧なるが道に親きなり、
書き下し
次でに示して云く、学道の人は先須く貧なるべし、財おほければ必ず其志を失ふ、在家学道のもの、猶ほ財宝にまとはり、居処をむさぼり、眷属に交はれば、設ひ其の志しありと云へとも、障道の因縁多し、古来俗人の参学する多けれども、其の中によしと云ふも猶を僧には及ばす、僧は三衣一鉢の外は財宝をもたず、居処を思はず、衣食を貪らざる間だ、一向に学道すれば分分に皆得益あるなり、其のゆへは貧なるが道に親きなり、
現代語訳
ある日僧が来て学道の心得を問うた。ついでに示して言われた。学道の人は、まずすべからく貧しくあるべきである。財が多ければ必ずその志を失う。在家で道を学ぶ者は、なお財宝にまとわりつかれ、住まいを貪り、身内と交わるので、たとえその志があるとしても、道を妨げる因縁が多い。古来、俗人で参学する者は多いけれども、その中でよいと言われる者もなお僧には及ばない。僧は三衣一鉢のほかは財宝を持たず、住まいを思わず、衣食を貪らない間は、ひたすら学道するので、分に応じてみな益を得るのである。その理由は、貧しいことが道に親しいからである。
解説
この章句が説くこと
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『正法眼蔵随聞記』巻六大宋国の叢林には、末代なりといへども、学道の人千万人ある中に、或は遠方より来り、或は郷土より出たるも有り、いづれも多分は貧なり、しかあれどもいまだ貧をうれへとせず、只悟道の未だしきことをのみ愁へて、或は楼上或は閣下に坐して、考妣に喪するが如くにして、一向に仏道を修するなり、
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『正法眼蔵随聞記』巻三人にかくすほどの物をばもつべからざるなり、盗賊等を怖るゝ故にこそかくし置んと思へ、捨て持たざれば還てやすきなり、人をば殺すとも人には殺されじと思ふ時こそ、身も苦しく用心もせらるれ、人は我れを殺すとも、我れは報を加へじと思ひ定めつれば、用心もせられず、盗賊も愁へられざるなり、時として安楽ならずと云ふことなし、
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論語・学而篇子貢曰く、「貧しくして諂うこと無く、富みて驕ること無きは如何。」子曰く、「可なり。未だ貧しくして道を楽しみ、富みて礼を好む者には若かざるなり。」子貢曰く、「詩に云う、『切するが如く、磋するが如く、琢するが如く、磨するが如し』と。其れ斯を之謂うか。」子曰く、「賜や、始めて与に詩を言う可きのみ。諸に往を告げて来を知る者なり。」
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『正法眼蔵随聞記』巻三貧ふして道を思ふは先賢古聖の仰ぐ所、諸仏諸祖の喜ぶ所ろなり、近来仏法の衰微しゆくこと眼前にあり、余始て建仁寺に入りし時見しと、後七八年過て見しと、次第にかはりゆくことは、寺の寮寮に塗籠をおき、各各器物を持し、美服を好み、財物を貯へ、放逸の言語を好み、問訊礼拝等の衰微することを以て思ふに、余所も推察せらるゝなり、仏法者は衣盂の外に財宝等を一切持べからず、なにを置んが為に塗籠をしつらふべきぞ、
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『正法眼蔵随聞記』巻三夜話に云く、学道の人は最も貧なるべし、世人を見るに、財ある人はまづ嗔恚耻辱の二つの難定めて来るなり、宝あれば人是を奪ひ取らんと思ふ、我は取られじとする時、嗔恚たちまちに起る、或は是を論じて問答対決に及び、つゐには闘争合戦をいたす、かくの如くのあひだに嗔恚も起り、恥辱も来るなり、貧にして貪ぼらざる時は、先づ此の難を免れて安楽自在なり、證拠眼前なり、教文を待べからず、爾のみならず、古聖先賢是を謗り、諸天仏祖皆な是を恥かしむ、然あるに愚癡なる人は財宝を貯へ、そこばくの嗔恚をいだくこと、恥辱の中の恥辱なり、
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『正法眼蔵随聞記』巻三亦示して云く、衲子の用心は仏祖の行履を守るべし、第一には先つ財宝を貪ほるへからす、其の故は如来の慈悲深重なること、喩へを以ても量り難し、然あるに彼の所為行履皆是れ衆生の為なり、一微塵計りも衆生の為に利益ならさるべき事を行はせ給はす、其の故は仏は是れ輪王太子にてましませば、即位し給ひて一天をも御意にまかさせたまひ、宝を以て弟子を憐れみ、所領を以て弟子をはごくみ給ふべきに、何に故に位を捨てゝ自ら乞食を行し給ふや是れ決定末世の衆生の為にも、弟子の行道のためにも、利益となる因縁あるへき故に、財宝を貯へす、乞食を行しおき給へり、