正法眼蔵随聞記 / 巻三
亦示して云く、衲子の用心は佛祖の行履を守るべし、第一には先つ財寶を貪ほるへからす、其の故は如來の慈悲深重なること、喩へを以ても量り難し、然あるに彼の所爲行履皆是れ衆生の爲なり、一微塵計りも衆生の爲に利益ならさるべき事を行はせ給はす、其の故は佛は是れ輪王太子にてましませば、卽位し給ひて一天をも御意にまかさせたまひ、寶を以て弟子を憐れみ、所領を以て弟子をはごくみ給ふべきに、何に故に位を捨てゝ自ら乞食を行し給ふや是れ決定末世の衆生の爲にも、弟子の行道のためにも、利益となる因緣あるへき故に、財寶を貯へす、乞食を行しおき給へり、
新字:亦示して云く、衲子の用心は仏祖の行履を守るべし、第一には先つ財宝を貪ほるへからす、其の故は如来の慈悲深重なること、喩へを以ても量り難し、然あるに彼の所為行履皆是れ衆生の為なり、一微塵計りも衆生の為に利益ならさるべき事を行はせ給はす、其の故は仏は是れ輪王太子にてましませば、即位し給ひて一天をも御意にまかさせたまひ、宝を以て弟子を憐れみ、所領を以て弟子をはごくみ給ふべきに、何に故に位を捨てゝ自ら乞食を行し給ふや是れ決定末世の衆生の為にも、弟子の行道のためにも、利益となる因縁あるへき故に、財宝を貯へす、乞食を行しおき給へり、
書き下し
亦示して云く、衲子の用心は仏祖の行履を守るべし、第一には先つ財宝を貪ほるへからす、其の故は如来の慈悲深重なること、喩へを以ても量り難し、然あるに彼の所為行履皆是れ衆生の為なり、一微塵計りも衆生の為に利益ならさるべき事を行はせ給はす、其の故は仏は是れ輪王太子にてましませば、即位し給ひて一天をも御意にまかさせたまひ、宝を以て弟子を憐れみ、所領を以て弟子をはごくみ給ふべきに、何に故に位を捨てゝ自ら乞食を行し給ふや是れ決定末世の衆生の為にも、弟子の行道のためにも、利益となる因縁あるへき故に、財宝を貯へす、乞食を行しおき給へり、
現代語訳
また示して言われた。修行僧の心得は、仏祖のふるまいを守るべきである。第一には、まず財宝を貪ってはならない。その理由は、如来の慈悲が深く重いことは、たとえをもってしても量りがたい。そうであるのに、その所作もふるまいも、みなこれは衆生のためである。微塵ほどでも衆生のために利益とならないような事は行われなかった。その理由は、仏は輪王の太子でおられたのだから、即位されて天下をも御意のままにされ、宝をもって弟子を憐れみ、所領をもって弟子を育まれるはずであるのに、どうして位を捨てて自ら乞食を行われたのか。これは決まって、末世の衆生のためにも、弟子が道を行ずるためにも利益となる因縁があるはずのゆえに、財宝を貯えず、乞食を行っておかれたのである。
解説
この章句が説くこと
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『正法眼蔵随聞記』巻六まのあたり見しことは、西川の僧遠方より来れりし故に、所持の物なし、纔に墨二三丁もてり、そのあたひ両三百文、此国の両三十文にあたれるを持て、唐土の紙の下品なる、極めて弱きを買ひとりて、襖ま或は袴などに作てきぬれば、起ち居に破るゝおとして、あさましきをも顧みず、うれへざるなり、或る人の云く、汝郷里にかへりて、道具装束とゝのへよと、答て云く、郷里遠方なり、路次の間に光陰を空ふして、学道の時を失せんことを憂ふと云て、猶更に寒をも愁へずして、学道せしなり、しかある故に、大国にはよき人も出来るなり、
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『正法眼蔵随聞記』巻三次でに示して云く、学道の人は先須く貧なるべし、財おほければ必ず其志を失ふ、在家学道のもの、猶ほ財宝にまとはり、居処をむさぼり、眷属に交はれば、設ひ其の志しありと云へとも、障道の因縁多し、古来俗人の参学する多けれども、其の中によしと云ふも猶を僧には及ばす、僧は三衣一鉢の外は財宝をもたず、居処を思はず、衣食を貪らざる間だ、一向に学道すれば分分に皆得益あるなり、其のゆへは貧なるが道に親きなり、
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『正法眼蔵随聞記』巻三貧ふして道を思ふは先賢古聖の仰ぐ所、諸仏諸祖の喜ぶ所ろなり、近来仏法の衰微しゆくこと眼前にあり、余始て建仁寺に入りし時見しと、後七八年過て見しと、次第にかはりゆくことは、寺の寮寮に塗籠をおき、各各器物を持し、美服を好み、財物を貯へ、放逸の言語を好み、問訊礼拝等の衰微することを以て思ふに、余所も推察せらるゝなり、仏法者は衣盂の外に財宝等を一切持べからず、なにを置んが為に塗籠をしつらふべきぞ、
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『正法眼蔵随聞記』巻六示して云く、伝へ聞く、昔日雪峰山の開山の時は、寺貧窮にして、或は絶烟し、或は綠豆飯をむして食して、日を送て学道せしかども、後には一千五百人の僧常に断たざるなり、昔しの人はかくのごとし、今もまたかくのごとくなるべし、
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『正法眼蔵随聞記』巻四竜牙云く、学道先ッ須シ且学貧ヲ、学貧貧後ニ道方ニ親と云ふ、昔し釈尊より今に至るまで、真実学道の人たからにゆたかなりとは聞かず見ざるなり、
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論語・学而篇子貢曰く、「貧しくして諂うこと無く、富みて驕ること無きは如何。」子曰く、「可なり。未だ貧しくして楽しみ、富みて礼を好む者には若かざるなり。」子貢曰く、「詩に云う、『切するが如く、磋するが如く、琢するが如く、磨するが如し』と。其れ斯の謂いか。」子曰く、「賜や、始めて与に詩を言う可きのみ。諸に往を告げて来を知る者なり。」

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