正法眼蔵随聞記 / 巻三
況や納僧は是にこへたる心をもつべきなり、衆生を思ふ事親疎を分かたず、平等に濟度の心を存し、世出世間の利益、すべて自利を思はず、人にも知られず、喜こびられずとも、只人の爲によきことを心の中に作して、我れはかくの如くの心もちたると、人に知られざるなり、此の故實はまづ世を捨て身を捨つべきなり、我が身をだにも眞實に捨てぬれば、人によく思はれんと謂ふ心は無きなり、然あればとて、亦人はなにとも思はば思へとて、惡しきことを行し、放逸ならんは、亦佛意に背くなり、只よき事を行し、人の爲に善事をなして、代りを得んと思ひ、我が名を顯はさんと思はずして、眞實無所得にして利生の事をなす、卽ち吾我を離るゝ第一の用心なり、
新字:況や納僧は是にこへたる心をもつべきなり、衆生を思ふ事親疎を分かたず、平等に済度の心を存し、世出世間の利益、すべて自利を思はず、人にも知られず、喜こびられずとも、只人の為によきことを心の中に作して、我れはかくの如くの心もちたると、人に知られざるなり、此の故実はまづ世を捨て身を捨つべきなり、我が身をだにも真実に捨てぬれば、人によく思はれんと謂ふ心は無きなり、然あればとて、亦人はなにとも思はば思へとて、悪しきことを行し、放逸ならんは、亦仏意に背くなり、只よき事を行し、人の為に善事をなして、代りを得んと思ひ、我が名を顕はさんと思はずして、真実無所得にして利生の事をなす、即ち吾我を離るゝ第一の用心なり、
書き下し
況や納僧は是にこへたる心をもつべきなり、衆生を思ふ事親疎を分かたず、平等に済度の心を存し、世出世間の利益、すべて自利を思はず、人にも知られず、喜こびられずとも、只人の為によきことを心の中に作して、我れはかくの如くの心もちたると、人に知られざるなり、此の故実はまづ世を捨て身を捨つべきなり、我が身をだにも真実に捨てぬれば、人によく思はれんと謂ふ心は無きなり、然あればとて、亦人はなにとも思はば思へとて、悪しきことを行し、放逸ならんは、亦仏意に背くなり、只よき事を行し、人の為に善事をなして、代りを得んと思ひ、我が名を顕はさんと思はずして、真実無所得にして利生の事をなす、即ち吾我を離るゝ第一の用心なり、
現代語訳
まして修行僧は、これを越えた心を持つべきである。衆生を思うことに親しい者疎い者の分け隔てをせず、平等に済度の心を持ち、世間と出世間の利益について、すべて自分の利を思わず、人にも知られず喜ばれなくとも、ただ人のためによい事を心の中でなして、自分はこのような心を持っているのだと人に知られないのである。この心得は、まず世を捨て身を捨てるべきである。自分の身さえ真実に捨ててしまえば、人によく思われようという心はないのである。そうかといって、また人は何とでも思うなら思えといって、悪い事を行い放逸であるのは、また仏の御意に背くのである。ただよい事を行い、人のために善事をなして、その代わりを得ようと思い、自分の名を顕そうと思わずに、真実に求めるところなく人を利する事をなす、それがすなわち我を離れる第一の心得である。
解説
この章句が説くこと
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『正法眼蔵随聞記』巻五示して云く、利他の行も自利の行も、たゞ劣なる方を捨てゝ勝なる方をとらば、大士の善行なるべし、老病を扶けんとて水菽の孝をいたすは、只今生暫時の妄愛、迷情の喜びばかりなり、迷情の有為に背きて無為の道を学せんは、設ひ遺恨は蒙ることありとも、出世の勝縁と成べし、是を思へ是を思へ、
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『正法眼蔵随聞記』巻一仏菩薩は人の来て請ふときは、身肉手足をも截れり、況や人来て一通の状をこはんに、名聞計りを思ふて其の事を聞かぬは是れ我執深きなり、人々ひじりならず、非分の事を云ふ人かなと、所詮なく思ふとも、我は名聞をすてゝ一分の人の利益とならば、真実の道に相応すべきなり、古人も其の義あるかと見ゆること多し、我も其の義を思ふて、少々檀那知音の思ひかけざる事を、人に申伝べて給はれと云事をば、文一通遣りて一分の利益を作すは易きことなり、
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『正法眼蔵随聞記』巻五時に装問て云く、真実求法の為には、有為の父母師匠の思愛の障縁を一向にすつべき道理はまことに然かあるべし、但し父母師匠の恩愛等のかたは一向に捨離すとも、亦菩薩の行を存せん時は、自利をさしおきて利他を先とすべきか、然あるに老師重病切にして、亦他人のたすくべきもなく、幸に保護の我れ一人其の仁に当りたるを、自らの修行ばかりを思ひて、渠を扶けずんば、菩薩の行に背けるに似たるか、たゞ大士の善行をきらふべからず、縁に随ひ事に触れて仏法を存すべきか、もしこれらの道理によらば、亦止りてたすくべきか、何ぞ独り求法を思ひて老病の師を扶けざるや、いかん、
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老子 第7章天長く地久なり。天地の以て長且つ久しう能くする者は、以て其の自ら生ぜざるを以てなり。是を以て聖人は其の身を後(のち)にして身先(せん)し、其の身を外にして身存す。非ざるか其の無私なるや。故に能く其の私を成す。
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『正法眼蔵随聞記』巻三此の心を存ぜんと思はヾまづ無常を思ふべし、一期は夢の如し、光陰は早く移る、露の命は消ね易し、時は人を待ざるならひなれば、只しばらく存じたるほど聊かのことにつけても、人の為によく仏意に順はんと思ふべきなり、
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『正法眼蔵随聞記』巻一只其の時に望んで能々思量して、眼前の人の為に一分の利益となるべき事をば人のあしく思はんことをも顧みず、なすべきなり、此のこと非分なり、わるしとて、疎みもし中をもたがはんも、かくの如くの不覚の知音、中たがはん事何か苦るしかるべき、外には非分の僻事をすると人には見ゆるとも、内には我執を破り、名聞を捨つる第一の用心なり、