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正法眼蔵随聞記 / 巻一

示して云く、昔し智覺禪師と云し人の發心出家のこと、此の師は初は官人な、才幹に富み、正直の賢人なり、國司たりし時、官錢をぬすみて施行す、傍人是を帝に奏す、帝聞て大に驚怪す、諸臣も皆あやしむ、罪過すでに輕からず、死罪におこなはるべしと定まりて、爰に帝議して云く、此臣は才人なり賢者なり、今ことさらに此罪を犯す、若し深き心あるか、頸を截らんとき悲み愁へたる氣色あらば速かに截るべし、若し其の氣色なくんば定めて深き心あらた、截るべからずと、

新字:示して云く、昔し智覚禅師と云し人の発心出家のこと、此の師は初は官人な、才幹に富み、正直の賢人なり、国司たりし時、官銭をぬすみて施行す、傍人是を帝に奏す、帝聞て大に驚怪す、諸臣も皆あやしむ、罪過すでに軽からず、死罪におこなはるべしと定まりて、爰に帝議して云く、此臣は才人なり賢者なり、今ことさらに此罪を犯す、若し深き心あるか、頸を截らんとき悲み愁へたる気色あらば速かに截るべし、若し其の気色なくんば定めて深き心あらた、截るべからずと、

書き下し

示して云く、昔し智覚禅師と云し人の発心出家のこと、此の師は初は官人な、才幹に富み、正直の賢人なり、国司たりし時、官銭をぬすみて施行す、傍人是を帝に奏す、帝聞て大に驚怪す、諸臣も皆あやしむ、罪過すでに軽からず、死罪におこなはるべしと定まりて、爰に帝議して云く、此臣は才人なり賢者なり、今ことさらに此罪を犯す、若し深き心あるか、頸を截らんとき悲み愁へたる気色あらば速かに截るべし、若し其の気色なくんば定めて深き心あらた、截るべからずと、

現代語訳

示して言われた。昔、智覚禅師といった人の発心出家のこと。この師は初め官人であって、才幹に富み、正直な賢人であった。国司であったとき、官の金を盗んで人々に施した。かたわらの者がこれを帝に奏上した。帝は聞いて大いに驚き怪しんだ。諸臣も皆あやしんだ。罪過はすでに軽くなく、死罪に行うべきだと定まって、そこで帝は議して言った。この臣は才人であり賢者である。今ことさらにこの罪を犯した。もしや深い心があるのではないか。首を切ろうとするとき、悲しみ愁える様子があれば速やかに切れ。もしその様子がなければ、きっと深い心があるのだから、切ってはならない、と。

解説

永明延寿、のちの智覚禅師の出家のいきさつを語る条の前半である。公金を盗んで施すという、弁解の余地のない罪から話が始まる。注目すべきは帝の裁きで、行為の軽重ではなく、死に臨んだときの顔色で心を測れと命じている。何をしたかではなく、どういう心でしたかを見ようとする点が、このあとの展開の伏線になっている。

この章句が説くこと

発心覚悟裁き施し智覚禅師

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