正法眼蔵随聞記 / 巻一
示して云く、設使我れは道理を以て云ふに、人はひがみて僻事を云ふ、理を攻て云ひ勝つはあしきなり、亦我は現に道理と思へども、吾が非にこそと云て、はやくまけて退くもあしばやなり、只人をも云ひ折らず、我が僻ことにも謂はず、無爲にして止みぬるが好きなり、耳に聽人れぬやうにして忘るれば、人も忘れて嗔らざるなり、第一の用心なり、
新字:示して云く、設使我れは道理を以て云ふに、人はひがみて僻事を云ふ、理を攻て云ひ勝つはあしきなり、亦我は現に道理と思へども、吾が非にこそと云て、はやくまけて退くもあしばやなり、只人をも云ひ折らず、我が僻ことにも謂はず、無為にして止みぬるが好きなり、耳に聴人れぬやうにして忘るれば、人も忘れて嗔らざるなり、第一の用心なり、
書き下し
示して云く、設使我れは道理を以て云ふに、人はひがみて僻事を云ふ、理を攻て云ひ勝つはあしきなり、亦我は現に道理と思へども、吾が非にこそと云て、はやくまけて退くもあしばやなり、只人をも云ひ折らず、我が僻ことにも謂はず、無為にして止みぬるが好きなり、耳に聴人れぬやうにして忘るれば、人も忘れて嗔らざるなり、第一の用心なり、
現代語訳
示して言われた。たとえ自分は道理をもって言っているのに、相手はひがんで筋の通らないことを言うとき、理を攻めて言い勝つのは悪いことである。また、自分は現に道理だと思っていながら、いや自分の非でしたと言って、さっさと負けて退くのも早まったことである。ただ、人を言い負かしもせず、自分の僻事だとも言わず、何もせずにやめてしまうのがよい。耳に入れないようにして忘れてしまえば、相手も忘れて怒らないのである。これが第一の用心である。
解説
この章句が説くこと
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老子・第37章道は常に無為にして而も為さざる無し。侯王若し能く之を守らば、万物は将に自ら化せんとす。化して作らんと欲すれば、吾れ将に之を鎮むるに無名の樸を以てせんとす。無名の樸は、夫れ亦た将に欲無からんとす。欲せずして以て静かなれば、天下は将に自ら定まらんとす。
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新語・無為道は無為より大なるは莫く、行いは謹敬より大なるは莫し。何を以て之を言う。昔舜の天下を治むるや、五弦の琴を弾じ、南風の詩を歌い、寂として国を治むるの意無きが若く、漠として天下を憂うるの心無きが若し。然り而して天下大いに治まる。周公は礼楽を制作し、天地を郊し、山川を望し、師旅を設けず、刑格れ法懸かりて、四海の内、奉供して来臻し、越裳の君、重訳して来朝す。故に無為なる者は乃ち有為なり。秦の始皇は刑罸を設け、車裂の誅を為し、以て姦邪を歛む。長城を戎境に築き、以て胡・越に備え、大を征し小を吞み、威は天下を震わし、将帥横行し、以て外国を服す。蒙恬は乱を外に討ち、李斯は法を内に治む。事愈々煩にして天下愈々乱れ、法愈々強くして奸愈々熾んに、兵馬益々設けて敵人愈々多し。秦は治を為すを欲せざるに非ず、然れども之を失う者は、乃ち挙措暴作し、刑を用うること太だ極まるが故なり。是を以て君子は寛舒を尚びて以て其の身を裦め、身を行うこと中和にして以て疏遠を致す。民は其の威を畏れて其の化に従い、其の徳を懐いて其の境に帰し、其の治を美として敢えて其の政に違わず。民は罸せずして畏れ、賞せずして勧み、道徳に漸漬して、中和に被服するの致す所なり。
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