正法眼蔵随聞記 / 巻一
此の如きの心を以てこそ、衆をも接し化をも宣ふべけれ、住持長老なればとて、亂に衆を領し、我が物に思ふて呵噴するは非なり、況や其人にあらずして、人の短處を云ひ他の非を謗るは非なり、能々用心すべきなり、他の非を見て惡しゝと思ふて、慈悲を以て化せんと思はゝ、腹立まじきやうに、方便して、傍ら事を云ふやうにて、こしらふべきなり、
新字:此の如きの心を以てこそ、衆をも接し化をも宣ふべけれ、住持長老なればとて、乱に衆を領し、我が物に思ふて呵噴するは非なり、況や其人にあらずして、人の短処を云ひ他の非を謗るは非なり、能々用心すべきなり、他の非を見て悪しゝと思ふて、慈悲を以て化せんと思はゝ、腹立まじきやうに、方便して、傍ら事を云ふやうにて、こしらふべきなり、
書き下し
此の如きの心を以てこそ、衆をも接し化をも宣ふべけれ、住持長老なればとて、乱に衆を領し、我が物に思ふて呵噴するは非なり、況や其人にあらずして、人の短処を云ひ他の非を謗るは非なり、能々用心すべきなり、他の非を見て悪しゝと思ふて、慈悲を以て化せんと思はゝ、腹立まじきやうに、方便して、傍ら事を云ふやうにて、こしらふべきなり、
現代語訳
このような心をもってこそ、衆をも導き、教化をも述べるべきである。住持や長老だからといって、みだりに衆を従え、自分の物のように思ってしかるのは非である。まして、その任にある人でもないのに、人の短所を言い、他人の非をそしるのは非である。よくよく用心すべきである。他人の非を見て悪いと思い、慈悲をもって教化しようと思うなら、腹が立たないように工夫して、かたわらの事を言うようにして取りなすべきである。
解説
叱ることが許されるのは立場と心構えの両方が揃ったときだけだと限定し、そのどちらも欠く者が人の短所を言うことを退ける。さらに実際の手だてとして、正面から突かずに脇の話から取りなせと説く。相手を直す前に、自分の腹立ちが混じらない道筋を作れという助言で、抽象的な戒めで終わらないところに随聞記の特徴がある。
この章句が説くこと
非難慈悲方便立場腹立ち教化
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