幽夢影 / 巻下・鏡中の影は著色の人物
鏡中之影,著色人物也;月下之影,寫意人物也。鏡中之影,鉤邊畫也;月下之影,沒骨畫也。月中山河之影,天文中地理也;水中星月之象,地理中天文也。
新字:鏡中之影,著色人物也;月下之影,写意人物也。鏡中之影,鉤辺画也;月下之影,没骨画也。月中山河之影,天文中地理也;水中星月之象,地理中天文也。
書き下し
鏡中の影は、著色の人物なり。月下の影は、寫意の人物なり。鏡中の影は、鉤邊の畫なり。月下の影は、沒骨の畫なり。月中の山河の影は、天文中の地理なり。水中の星月の象は、地理中の天文なり。
現代語訳
鏡に映る姿は、彩色した人物画です。月光の下の影は、写意の人物画です。鏡に映る姿は、輪郭を線でとった絵です。月光の下の影は、輪郭線を用いない没骨の絵です。月の中に見える山河の影は、天文の中の地理です。水に映る星や月の姿は、地理の中の天文です。
解説
さまざまな影や映像を、絵画の技法や学問の分類で言い表した一則です。著色は色を施した緻密な絵、写意は形より筆の勢いと心持ちを重んじる絵です。鉤辺は輪郭を線で描く技法、没骨は輪郭線を使わず墨や色の面だけで描く技法です。鏡は色も輪郭もくっきり映し、月下の影はぼんやりと形の気配だけを残すので、それぞれの画法にたとえたのです。後半では、月面の模様を地上の山河の影と見る古い考えを踏まえ、天にある地理、地にある天文という鮮やかな対を作っています。友人の石天外は「古今の名画家がそろって筆を置くだろう」と感嘆しています。日常の光と影にも、見立て次第で豊かな世界が広がります。
この章句が説くこと
絵画月影見立て風雅自然
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『幽夢影』巻下・影の受くると施すと鏡と水との影は、受くる所の者なり。日と燈との影は、施す所の者なり。月の影有るは、則ち天に在る者は受と爲し、地に在る者は施と爲すなり。
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