幽夢影 / 巻上・魂夢を攝召し情思を顛倒す
山之光,水之聲,月之色,花之香,文人之韻致,美人之姿態,皆無可名狀,無可執著。眞足以攝召魂夢,顛倒情思!
新字:山之光,水之声,月之色,花之香,文人之韻致,美人之姿態,皆無可名状,無可執著。真足以摂召魂夢,顛倒情思!
書き下し
山の光、水の聲、月の色、花の香、文人の韻致、美人の姿態は、皆名狀すべき無く、執著すべき無し。眞に以て魂夢を攝召し、情思を顛倒するに足る。
現代語訳
山の光、水の音、月の色、花の香り、文人の風雅な趣、美しい人の姿や身のこなしは、どれも言葉で言い表すことができず、手でつかむこともできません。まことに、魂を夢の中まで引き寄せ、心をかき乱すのに十分なものです。
解説
言葉にもならず、つかむこともできない美しさを六つ並べた一則です。山の光、水の音、月の色、花の香りという自然の美と、文人の韻致、美人の姿態という人の美とが並べられています。どれも確かにそこにあるのに、名づけることも所有することもできません。だからこそ、人の心は夢の中までそれを追いかけ、思いが乱されるのだと言います。摂召は魂を引き寄せること、顛倒は心をひっくり返すことです。友人の呉街南は、この文人と美人が山水花月の間に並んで座ったら、魂と心はどうなってしまうだろうと想像しています。手に入らないからこそ心を動かすものが、暮らしの豊かさを支えています。
この章句が説くこと
風雅自然美閑適情
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『幽夢影』巻上・雪に因りて高士を想ふ雪に因りて高士を想ひ、花に因りて美人を想ひ、酒に因りて俠客を想ひ、月に因りて好友を想ひ、山水に因りて得意の詩文を想ふ。
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『幽夢影』巻上・樓上に山を看る樓上に山を看、城頭に雪を看、燈前に月を看、舟中に霞を看、月下に美人を看るは、另に是れ一番の情境なり。
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『幽夢影』巻上・景に之を言へば極めて幽なる有り景に之を言へば極めて幽にして、實は蕭索たる者有り、煙雨なり。境に之を言へば極めて雅にして、實は堪へ難き者有り、貧病なり。聲に之を言へば極めて韻にして、實は粗鄙なる者有り、賣花の聲なり。
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『幽夢影』巻下・詩詞を以て心と爲す所謂美人なる者は、花を以て貌と爲し、鳥を以て聲と爲し、月を以て神と爲し、柳を以て態と爲し、玉を以て骨と爲し、冰雪を以て膚と爲し、秋水を以て姿と爲し、詩詞を以て心と爲す。吾間然する無し。
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『幽夢影』巻上・月下に禪を談ず月下に禪を談ずれば、旨趣益ます遠し。月下に劍を説けば、肝膽益ます眞なり。月下に詩を論ずれば、風致益ます幽なり。月下に美人に對すれば、情意益ます篤し。
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『幽夢影』巻上・人は以て癖無かるべからず花は以て蝶無かるべからず、山は以て泉無かるべからず、石は以て苔無かるべからず、水は以て藻無かるべからず、喬木は以て藤蘿無かるべからず、人は以て癖無かるべからず。