幽夢影 / 巻上・月下に禪を談ず
月下談禪,旨趣益遠;月下説劍,肝膽益眞;月下論詩,風致益幽;月下對美人,情意益篤。
新字:月下談禅,旨趣益遠;月下説剣,肝胆益真;月下論詩,風致益幽;月下対美人,情意益篤。
書き下し
月下に禪を談ずれば、旨趣益ます遠し。月下に劍を説けば、肝膽益ます眞なり。月下に詩を論ずれば、風致益ます幽なり。月下に美人に對すれば、情意益ます篤し。
現代語訳
月の下で禅を語り合えば、その趣はいっそう深遠になります。月の下で剣を語れば、心の底からの思いがいっそう真実味を帯びます。月の下で詩を論じれば、その風情はいっそう奥ゆかしくなります。月の下で美しい人と向き合えば、情はいっそう細やかになります。
解説
月明かりが、人の営みの味わいを深めることを四つ並べた一則です。禅の話は深みを増し、剣を語る志士の言葉には真心がこもり、詩の論は幽玄さを帯び、恋しい人との語らいは情が濃くなります。肝胆は肝臓と胆嚢、転じて心の奥底、真心のことです。月の光は昼の光と違って物の輪郭をやわらげ、人の心を内側へ向かわせる力があるのでしょう。友人の袁士旦は、真夏の蒸し暑い中で豪華な宴に出る、雪の中で試験を受ける、雨の日に道学先生と向き合う、その味わいと比べてどうかと、正反対の場面を並べて笑わせています。大切な話ほど、場の空気を選ぶと心が通いやすくなります。
この章句が説くこと
風雅月禅情交友
関連する章句
-
『幽夢影』巻上・魂夢を攝召し情思を顛倒す山の光、水の聲、月の色、花の香、文人の韻致、美人の姿態は、皆名狀すべき無く、執著すべき無し。眞に以て魂夢を攝召し、情思を顛倒するに足る。
-
『幽夢影』巻上・雪に因りて高士を想ふ雪に因りて高士を想ひ、花に因りて美人を想ひ、酒に因りて俠客を想ひ、月に因りて好友を想ひ、山水に因りて得意の詩文を想ふ。
-
『幽夢影』巻上・樓上に山を看る樓上に山を看、城頭に雪を看、燈前に月を看、舟中に霞を看、月下に美人を看るは、另に是れ一番の情境なり。
-
『幽夢影』巻上・花を賞するには佳人に對す花を賞するには宜しく佳人に對すべし、月に醉ふには宜しく韻人に對すべし、雪に映ずるには宜しく高人に對すべし。
-
『酔古堂剣掃』集素・燈下に花を玩び簾內に月を看る燈下に花を玩び、簾內に月を看、雨後に景を觀、醉裏に詩を題し、夢中に書聲を聞く、皆別趣有り。
-
『幽夢影』巻下・鏡中の影は著色の人物鏡中の影は、著色の人物なり。月下の影は、寫意の人物なり。鏡中の影は、鉤邊の畫なり。月下の影は、沒骨の畫なり。月中の山河の影は、天文中の地理なり。水中の星月の象は、地理中の天文なり。