幽夢影 / 巻下・書有れば必ず當に讀むべし
天下無書則已;有則必當讀;無酒則已,有則必當飲;無名山則已,有則必當遊;無花月則已,有則必當賞玩;無才子佳人則已,有則必當愛慕憐惜。
新字:天下無書則已;有則必当読;無酒則已,有則必当飲;無名山則已,有則必当遊;無花月則已,有則必当賞玩;無才子佳人則已,有則必当愛慕憐惜。
書き下し
天下に書無ければ則ち已む、有れば則ち必ず當に讀むべし。酒無ければ則ち已む、有れば則ち必ず當に飲むべし。名山無ければ則ち已む、有れば則ち必ず當に遊ぶべし。花月無ければ則ち已む、有れば則ち必ず當に賞玩すべし。才子佳人無ければ則ち已む、有れば則ち必ず當に愛慕憐惜すべし。
現代語訳
この世に書物がなければそれまでですが、あるのなら必ず読むべきです。酒がなければそれまでですが、あるのなら必ず飲むべきです。名山がなければそれまでですが、あるのなら必ず訪れるべきです。花や月がなければそれまでですが、あるのなら必ず愛でるべきです。才子や佳人がいなければそれまでですが、いるのなら必ず慕い、いたわり惜しむべきです。
解説
この世の良いものを、見過ごさずに味わい尽くせと説いた五段の一則です。書物・酒・名山・花月・才子佳人と、文人が愛したものが次々に並びます。「無ければそれまで、有れば必ず」という繰り返しには、せっかく与えられたものを放っておくのは惜しいという、張潮の生への熱い肯定が込められています。最後の才子佳人は、才能ある人や美しい人を大切にし、その不遇を惜しむべきだという意味です。友人で弟の張木山は「言うは易い、わが家の近くの黄山にさえ、何度行けたことか」とこぼしています。身近にある本や景色や人との出会いを、いつでもできると先延ばしにしていないか、考えさせられる一則です。
この章句が説くこと
享受読書風雅閑適才子
関連する章句
-
『幽夢影』巻下・詩酒無ければ山水も具文と爲る若し詩酒無ければ、則ち山水も具文と爲る。若し佳麗無ければ、則ち花月も皆虛設なり。
-
『幽夢影』巻上・翰墨棋酒無くんば昔人云ふ、若し花・月・美人無くんば、此の世界に生ずるを願はずと。予一語を益して云ふ、若し翰・墨・棋・酒無くんば、必ずしも定めて人身と作らずと。
-
『幽夢影』巻上・人は閒より樂しきは莫し人は閒より樂しきは莫し、事とする所無きの謂に非ざるなり。閒なれば則ち能く書を讀み、閒なれば則ち能く名勝に遊び、閒なれば則ち能く益友に交はり、閒なれば則ち能く酒を飲み、閒なれば則ち能く書を著す。天下の樂しみ、孰れか是れより大ならん。
-
『幽夢影』巻上・能く記するを難しと爲す書を藏するは難からず、能く看るを難しと爲す。書を看るは難からず、能く讀むを難しと爲す。書を讀むは難からず、能く用ふるを難しと爲す。能く用ふるは難からず、能く記するを難しと爲す。
-
『幽夢影』巻下・酒は好むべくも座を罵るべからず酒は好むべくも座を罵るべからず、色は好むべくも生を傷るべからず、財は好むべくも心を昧ますべからず、氣は好むべくも理を越ゆべからず。
-
『幽夢影』巻下・善く書を讀む者は之くとして書に非ざる無し善く書を讀む者は、之くとして書に非ざるは無し。山水も亦書なり、棋酒も亦書なり、花月も亦書なり。善く山水に遊ぶ者は、之くとして山水に非ざるは無し。書史も亦山水なり、詩酒も亦山水なり、花月も亦山水なり。