幽夢影 / 巻下・喬松百餘章を得ば
以松花爲糧,以松實爲香,以松枝爲麈尾,以松陰爲歩障,以松濤爲鼓吹。山居得喬松百餘章,眞乃受用不盡。
新字:以松花為糧,以松実為香,以松枝為麈尾,以松陰為歩障,以松濤為鼓吹。山居得喬松百余章,真乃受用不尽。
書き下し
松花を以て糧と爲し、松實を以て香と爲し、松枝を以て麈尾と爲し、松陰を以て歩障と爲し、松濤を以て鼓吹と爲す。山居して喬松百餘章を得ば、眞に乃ち受用盡きず。
現代語訳
松の花粉を食糧とし、松の実を香とし、松の枝を払子とし、松の木陰を目隠しの幕とし、松風の音を楽の調べとします。山に住んで高い松を百本余りも手に入れれば、まことに味わい尽くせない楽しみがあります。
解説
一本の松を、食・香・道具・住まい・音楽と五通りに使いこなす、隠者の暮らしの夢を描いた一則です。麈尾は大鹿の尾で作った払子で、清談の名士が手にした風流な道具です。歩障は貴人が外出のときに周りをさえぎる幕、鼓吹は儀式の楽隊のことです。章は大木を数える単位です。貴族の贅沢品を、ことごとく松で置き換えてしまうところに痛快さがあります。友人の施愚山が「松には大きな蟻が多いのを忘れたのか」と言うと、江含徵が「それなら蟻の王になればよい」と返しています。持ち物を増やさなくても、見方を変えれば身近なものが豊かさの源になると気づかせてくれます。
この章句が説くこと
閑適隠逸自然清貧松
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