幽夢影 / 巻下・花は其の落つるを見るべからず
花不可見其落,月不可見其沉,美人不可見其夭。
新字:花不可見其落,月不可見其沈,美人不可見其夭。
書き下し
花は其の落つるを見るべからず、月は其の沉むを見るべからず、美人は其の夭するを見るべからず。
現代語訳
花はその散るところを見てはなりません。月はその沈むところを見てはなりません。美しい人はその若くして亡くなるところを見てはなりません。
解説
美しいものの終わりを見たくないという、三つを並べた短い一則です。花の落花、月の入り、美人の夭折と、いずれも盛りのあとに来る衰えや別れを指しています。夭は若くして死ぬことです。張潮は美しさの頂点だけを心に留めたいと願い、終わりを見届ける悲しみを避けようとしています。友人の朱其恭は「それなら美人は白髪になり歯が抜けるまで見届けて、ようやく満足するというのか」と茶化しています。次の則で張潮は「見届けるべきもの」を挙げており、二つを並べて読むと味わいが増します。大切なものを失う場面から目をそらしたくなる気持ちは、今も昔も変わりません。
この章句が説くこと
無常美人花月風雅情
関連する章句
-
『幽夢影』巻下・花を種うれば其の開くを見るべし花を種うれば須く其の開くを見るべく、月を待てば須く其の滿つるを見るべく、書を著せば須く其の成るを見るべく、美人は須く其の暢適するを見るべくして、方に實際有り。否らざれば則ち皆虛設と爲る。
-
『幽夢影』巻下・詩詞を以て心と爲す所謂美人なる者は、花を以て貌と爲し、鳥を以て聲と爲し、月を以て神と爲し、柳を以て態と爲し、玉を以て骨と爲し、冰雪を以て膚と爲し、秋水を以て姿と爲し、詩詞を以て心と爲す。吾間然する無し。
-
『酔古堂剣掃』集情・世に花月美人無くんば世に花月美人無くんば、此の世界に生まるるを願はず。
-
『幽夢影』巻下・古今萬世の寶才子にして姿容美しく、佳人にして著作に工なる、斷じて年を永くする能はざる者は、獨り造物の忌む所と爲るのみに匪ず。蓋し此の種は原獨り一時の寶爲るのみならず、乃ち古今萬世の寶なり、故に久しく人世に留まりて以て褻を取るを欲せざるのみ。
-
『幽夢影』巻上・生香を捨てて解語を取る美人の花に勝る者は、解語なり。花の美人に勝る者は、生香なり。二者兼ぬるを得べからずんば、生香を捨てて解語を取る者なり。
-
『幽夢影』巻上・翰墨棋酒無くんば昔人云ふ、若し花・月・美人無くんば、此の世界に生ずるを願はずと。予一語を益して云ふ、若し翰・墨・棋・酒無くんば、必ずしも定めて人身と作らずと。