幽夢影 / 巻上・前人の未だ發せざるの論を發す
發前人未發之論,方是奇書;言妻子難言之情,乃爲密友。
新字:発前人未発之論,方是奇書;言妻子難言之情,乃為密友。
書き下し
前人の未だ發せざるの論を發して、方に是れ奇書なり。妻子の言ひ難きの情を言ひて、乃ち密友と爲す。
現代語訳
先人がまだ言っていない論を打ち出してこそ、はじめて奇書といえます。妻や子にも言いにくい胸の内を話せてこそ、親密な友といえます。
解説
本物の書物と本物の友の条件を、一句ずつで示した対句です。奇書とは珍しい書物ではなく、先人がまだ言っていない新しい見方を打ち出した書物のことです。密友とは、妻や子にさえ打ち明けにくい悩みや思いを話せる相手のことです。一方は世の人に向けて未知のことを言い、もう一方はただ一人に向けて言いにくいことを言うという、公と私の対比にもなっています。友人の陸雲士は、幽夢影が述べているのはどれも未だ発せられなかった論で、語っているのはどれも言いがたい情だと評し、この句はそのまま本書への題辞になると言っています。人と同じことを言わない勇気と、本音を話せる相手は、どちらも得がたいものです。
この章句が説くこと
交友読書密友独創学問
関連する章句
-
人物志・體別夫れ學は材を成す所以なり、疏は情を推す所以なり。偏材の性は、移轉すべからず。
-
言志四録・南洲手抄学之を古訓に稽へ、問之を師友に質すは、人皆之を知る。学必ず之を躬に学び、問必ず諸を心に問ふは、其れ幾人有らんか。
-
言志四録・南洲手抄朝にして食はずば、昼にして饑う。少うして学ばずば、壮にして惑ふ。饑うるは猶忍ぶ可し、惑ふは奈何ともす可からず。
-
歎異抄・第十二条経釈を読み学せざる輩、往生不定の由のこと。この条、すこぶる不足言の義と言いつべし。 他力真実の旨を明かせる諸の聖教は、本願を信じ念仏を申さば仏に成る、そのほか何の学問かは往生の要なるべきや。 まことにこの理に迷えらん人は、いかにもいかにも学問して、本願の旨を知るべきなり。 経釈を読み学すといえども、聖教の本意を心得ざる条、もっとも不便のことなり。
-
論語・為政篇子曰く、異端を攻むるは、斯れ害のみ。
-
説苑・建本子思曰わく、学は才を益す所以なり、礪は刃を致す所以なり。吾嘗て幽処して深く思うも、学の速やかなるに若かず。吾嘗て跂ちて望むも、高きに登りて博く見るに若かず。故に風に順いて呼べば、声疾しきを加えざれども聞く者衆し。丘に登りて招けば、臂長きを加えざれども見る者遠し。故に魚は水に乗り、鳥は風に乗り、草木は時に乗る。