幽夢影 / 巻上・必ずしも過ぎて求めず
抄寫之筆墨,不必過求其佳,若施之縑素,則不可不求其佳;誦讀之書籍,不必過求其備,若以供稽考,則不可不求其備;遊歷之山水,不必過求其妙,若因之卜居,則不可不求其妙。
新字:抄写之筆墨,不必過求其佳,若施之縑素,則不可不求其佳;誦読之書籍,不必過求其備,若以供稽考,則不可不求其備;遊歴之山水,不必過求其妙,若因之卜居,則不可不求其妙。
書き下し
抄寫の筆墨は、必ずしも過ぎて其の佳を求めず、若し之を縑素に施さば、則ち其の佳を求めざるべからず。誦讀の書籍は、必ずしも過ぎて其の備はるを求めず、若し以て稽考に供さば、則ち其の備はるを求めざるべからず。遊歷の山水は、必ずしも過ぎて其の妙を求めず、若し之に因りて居を卜さば、則ち其の妙を求めざるべからず。
現代語訳
書き写すための筆や墨は、あまり上等なものを求めなくてもよいのですが、絹地に書くのであれば、良いものを求めなければなりません。声に出して読むための書物は、あまり完全にそろえることを求めなくてもよいのですが、調べものに使うのであれば、そろっていることを求めなければなりません。旅して巡る山水は、あまり絶景であることを求めなくてもよいのですが、そこに住まいを定めるのであれば、すぐれた景色を求めなければなりません。
解説
同じものでも、使い道によって求める水準を変えよと説いた一則です。写し書きの筆墨は並でよくても、絹に書いて残す作品には上等なものが要ります。読むための本は一部でも足りますが、調べ物をするなら全巻そろっていなければ役に立ちません。旅先の景色はほどほどでも楽しめますが、住む場所を選ぶなら景色の良さは妥協できません。縑素は書画に用いる白い絹、稽考は調べて考え合わせること、卜居は住まいを選び定めることです。友人の王司直は、求めるべきものを求め、求めなくてよいものは求めないことだとまとめています。どこに手間とお金をかけ、どこで手を抜くかの見極めは、仕事の質を大きく左右します。

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