幽夢影 / 巻上・十の恨み
一恨書囊易蛀,二恨夏夜有蚊,三恨月臺易漏,四恨菊葉多焦,五恨松多大蟻,六恨竹多落葉,七恨桂荷易謝,八恨薜蘿藏虺,九恨架花生刺,十恨河豚多毒。
新字:一恨書嚢易蛀,二恨夏夜有蚊,三恨月台易漏,四恨菊葉多焦,五恨松多大蟻,六恨竹多落葉,七恨桂荷易謝,八恨薜蘿蔵虺,九恨架花生刺,十恨河豚多毒。
書き下し
一に恨むらくは書囊の蛀まれ易きを、二に恨むらくは夏夜に蚊有るを、三に恨むらくは月臺の漏り易きを、四に恨むらくは菊葉の焦るること多きを、五に恨むらくは松に大蟻多きを、六に恨むらくは竹に落葉多きを、七に恨むらくは桂荷の謝し易きを、八に恨むらくは薜蘿の虺を藏するを、九に恨むらくは架花の刺を生ずるを、十に恨むらくは河豚の毒多きを。
現代語訳
一つ目の恨みは、書物を入れた袋が虫に食われやすいこと。二つ目は、夏の夜に蚊がいること。三つ目は、月見の台が雨漏りしやすいこと。四つ目は、菊の葉がよく枯れて焦げること。五つ目は、松に大きな蟻が多いこと。六つ目は、竹に落ち葉が多いこと。七つ目は、木犀や蓮の花がすぐ散ること。八つ目は、蔦かずらに毒蛇が潜んでいること。九つ目は、棚に這わせた花に棘があること。十番目は、河豚に毒が多いことです。
解説
風雅な暮らしに付きまとう小さな不満を、十の恨みとして数え上げた一則です。書物、夏の夜、月見台、菊、松、竹、木犀と蓮、蔦、棚の花、河豚と、どれも愛するものばかりですが、それぞれに困った一面があります。本当に嫌いなものなら恨みはしないので、この恨みは愛着の裏返しと言えます。河豚の毒を最後に置いて、うまいものには危険が伴うと軽く落としているのも洒落ています。友人の石天外は、自分には才人に品行がないことと、佳人が薄命であることの二つの恨みがあると付け足しています。好きなものの欠点も含めて愛せるかどうかが、趣味の深さを決めます。
この章句が説くこと
風雅閑適愛着自然恨み
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