幽夢影 / 巻上・菩薩の心腸
爲月憂雲,爲書憂蠹,爲花憂風雨,爲才子佳人憂命薄。眞是菩薩心腸。
新字:為月憂雲,為書憂蠹,為花憂風雨,為才子佳人憂命薄。真是菩薩心腸。
書き下し
月の爲に雲を憂ひ、書の爲に蠹を憂ひ、花の爲に風雨を憂ひ、才子佳人の爲に命の薄きを憂ふ。眞に是れ菩薩の心腸なり。
現代語訳
月のために雲がかかるのを心配し、書物のために紙魚に食われるのを心配し、花のために風雨を心配し、才子や佳人のために運命が薄いことを心配します。これこそ本当に菩薩のような心です。
解説
美しいもの、価値あるものが損なわれることを案じる心を、菩薩の心腸と呼んだ一則です。雲に隠れる月、紙魚に食われる書物、風雨に散る花、才能や美貌に恵まれながら不運に終わる人と、四つの憂いが並びます。心腸は心根のことです。自分のためではなく、他のものの行く末を思って心を痛めるところに慈悲を見ています。友人の余淡心は、そんなに憂えてばかりではいつ楽しむのかとからかい、江含徵は自分はこの書を読むあいだ蟹が霧で痩せるのが心配だとおどけています。大切なものに目を配る心は、仕事でも人を育てる場面でも生きてきます。
この章句が説くこと
慈悲風雅憂い才子佳人心
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