養生訓 / 巻第六・慎病
或は疫病をうれふ。おそるべし。文祿の朝鮮軍に、戰死の人はすくなく、疫死多かりしは、陣屋ひきくまばらにて、士卒寒濕にあたりし故なりとぞ。居處も寢室も、高くかわける所よし。是皆外濕をふせぐなり。一たび濕にあたればいえがたし。おそるべし。又酒茶湯水を多く飮まず、瓜菓冷麵を多く食はざるは、是皆内濕をふせぐなり。夏月冷水を多く飮み、冷麵をしばしば食すれば、必ず内濕にやぶられ、痰瘧泄痢をうれふ。愼むべし。一傷寒を大病と云ふ。諸病の内尤おもし。わかくさかんなる人も、傷寒疫癘をわづらひ、死ぬる人多し。おそるべし。かねて風寒暑濕をよくふせぐべし。初發のかろき時早くつゝしむべし。
新字:或は疫病をうれふ。おそるべし。文禄の朝鮮軍に、戦死の人はすくなく、疫死多かりしは、陣屋ひきくまばらにて、士卒寒湿にあたりし故なりとぞ。居処も寝室も、高くかわける所よし。是皆外湿をふせぐなり。一たび湿にあたればいえがたし。おそるべし。又酒茶湯水を多く飲まず、瓜菓冷麺を多く食はざるは、是皆内湿をふせぐなり。夏月冷水を多く飲み、冷麺をしばしば食すれば、必ず内湿にやぶられ、痰瘧泄痢をうれふ。慎むべし。一傷寒を大病と云ふ。諸病の内尤おもし。わかくさかんなる人も、傷寒疫癘をわづらひ、死ぬる人多し。おそるべし。かねて風寒暑湿をよくふせぐべし。初発のかろき時早くつゝしむべし。
書き下し
或は疫病をうれふ。おそるべし。文禄の朝鮮軍に、戦死の人はすくなく、疫死多かりしは、陣屋ひきくまばらにて、士卒寒湿にあたりし故なりとぞ。居処も寝室も、高くかわける所よし。是皆外湿をふせぐなり。一たび湿にあたればいえがたし。おそるべし。又酒茶湯水を多く飲まず、瓜菓冷麺を多く食はざるは、是皆内湿をふせぐなり。夏月冷水を多く飲み、冷麺をしばしば食すれば、必ず内湿にやぶられ、痰瘧泄痢をうれふ。慎むべし。一傷寒を大病と云ふ。諸病の内尤おもし。わかくさかんなる人も、傷寒疫癘をわづらひ、死ぬる人多し。おそるべし。かねて風寒暑湿をよくふせぐべし。初発のかろき時早くつつしむべし。
現代語訳
あるいは流行病を患います。恐るべきことです。文禄の朝鮮の役で、戦死した人は少なく、病死が多かったのは、陣屋が低くまばらで、兵士が寒さと湿気にあたったためだということです。住まいも寝室も、高く乾いた所がよいのです。これはみな外からの湿を防ぐことです。一度湿にあたると治りにくいものです。恐るべきことです。また酒や茶や湯水を多く飲まず、瓜や果物や冷麦を多く食べないのは、みな内の湿を防ぐことです。夏に冷水を多く飲み、冷麦をしばしば食べれば、必ず内の湿にこわされ、痰や瘧や下痢を患います。慎むべきです。傷寒を大病といいます。多くの病の中でもっとも重いものです。若く盛んな人でも、傷寒や流行病を患って死ぬ人が多いのです。恐るべきことです。前もって風・寒・暑・湿をよく防ぐべきです。おこりはじめの軽いときに早く慎むべきです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第六・慎病一病を早く治せんとしていそげば、却てあやまりて病をます。保養はおこたりなくつとめて、癒ゆる事はいそがず、其自然にまかすべし。万の事、あまりよくせんとすれば、却てあしくなる。一居処寝室は、つねに風寒暑湿の邪気をふせぐべし。風寒暑は、人の身をやぶる事はげしくして早し。湿は人の身をやぶる事おそくして深し。故に風寒暑は人おそれやすし、湿気は人おそれず、人にあたる事ふかし。故に久しくしていえず。湿ある所を早く遠ざかるべし。山の岸近き所を遠ざかるべし。又土あさく、水近く、床ひきき処に坐臥すべからず。床を高くし、床の下の壁にまどを開きて、気を通ずべし。新に塗りたる壁に近づきて坐臥すべからず。湿にあたりて病となりていえがたし。
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『養生訓』巻第六・慎病一千金方に曰く、冬温なる事を極めず、夏涼しき事をきはめず。凡一時快き事は、必ず後の災となる。一病生じては、心のうれひ、身の苦甚し。其上、医をまねき、薬を飲み、炙をし、針をさし、酒をたち、食をへらし、さまざまに心をなやまし、身をせめて、病を治せんとせんよりは、初に内欲をこらへ、外邪をふせげば、病おこらず、薬を服せず、針灸せずして、身のなやみ心の苦なし。初しばしの間つつしみ忍ぶは、少しの心づかひなれど、後の患なきは、大なるしるしなり。後に薬と針灸を用ひ、酒食をこらへつつしむは、其苦甚しけれど益すくなし。古語に、終をつつしむ事は、始に於てせよといへり。万の事、始によくつつしめば、後に悔なし。養生の道、ことさらかくのごとし。一飲食色慾の内欲をほしいままにせずして、かたく慎み、風寒暑湿の外邪をおそれ防がば、病なくして、薬を用ひずとも患なかるべし。もし慾をほしいままにして慎まず、只脾腎を補ふ薬治と食治とを頼まば、必ずしるしなかるべし。
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『養生訓』巻第六・慎病一雪中に跣にて行きて、甚寒えたるに、熱湯にて足を洗ふべからず、火に早くあたるべからず。大寒にあたりて、即ち熱物を食飲すべからず。一頓死の症多し。卒中風、中気、中悪、中毒、中暑、凍死、湯火、食傷、乾霍乱、破傷風、喉痹、痰厥、失血、打撲、小児の馬脾風等の症、皆卒死す。此外又五絶とて、五種の頓死あり。一には自ら縊る。二にはおしにうたる。三には水におぼる。四には夜魘はる。五には婦人難産、是皆暴死する症なり。常の時方書を考へ、又其治法を良医にたづねて知り置くべし。かねて用意なくして、俄に所置を失ふべからず。一神怪奇異なる事、たとひ目前に見るとも、必ず鬼神の所為とは云ひがたし。人に心病あり、眼病あり。此病あれば、実になき物、目に見ゆる事多し。信じてまよふべからず。
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『養生訓』巻第六・慎病一古語に、常に病想を作す。いふ意は、無病の時、病ある日のくるしみを常に思ひやりて、風寒暑湿の外邪をふせぎ、酒食好色の内欲を節にし、身体の起臥動静をつつしめば病なし。又古詩に曰く、安楽にして常に病苦の時を思ふ。いふ意は、病なくて安楽なる時に、初病に苦める時を常に思ひ出して、忘るべからずと也。無病の時、慎ありて恣ならざれば、病生ぜず。是病おこりて、良薬を服し、鍼灸をするにまされり。邵康節の詩に、其病後能く薬を服せんより、病前能自防ぐにしかず、といへるがごとし。
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『養生訓』巻第六・慎病一夏は発生の気いよいよさかんにして、汗もれ、人の肌膚大に開く故、外邪入りやすし。涼風に久しくあたるべからず、沐浴の後風に当るべからず。且夏は伏陰とて陰気かくれて腹中にある故、食物の消化する事おそし。多く飲食すべからず。温なる物を食ひて、脾胃をあたたむべし。冷水を飲むべからず。すべて生、冷の物を忌む。冷麺多く食ふべからず。虚人は尤泄瀉のうれひおそるべし。冷水に浴すべからず。暑甚しき時も、冷水を以て面目を洗へば眼を損ず、冷水にて手足洗ふべからず、睡中に扇にて人にあふがしむべからず、風にあたり臥すべからず、夜外に臥すべからず、夜外に久しく坐して、露気にあたるべからず、極暑の時も極めて涼しくすべからず、日に久しく曝せる熱物の上に坐すべからず。
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『養生訓』巻第六・慎病一熱食して汗いでば、風に当るべからず。一凡人の身、高き処よりおち、木石におされなどして、損傷したる処に、灸をする事なかれ。灸をすれば、薬を服してもしるしなし。又兵器にやぶられて、血おほく出でたる者は、必ずのんどかわくもの也。水をあたふべからず。甚あしし。又粥をのましむべからず。粥をのめば、血わき出でて必ず死ぬ。是等の事、かねて知らずんばあるべからず。又金瘡、折傷、口開きたる瘡、風にあたるべからず、扇にてもあふぐべからず。痙症となり、或は破傷風となる。
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