養生訓 / 巻第六・慎病
一病を早く治せんとしていそげば、却てあやまりて病をます。保養はおこたりなくつとめて、癒ゆる事はいそがず、其自然にまかすべし。萬の事、あまりよくせんとすれば、却てあしくなる。一居處寢室は、つねに風寒暑濕の邪氣をふせぐべし。風寒暑は、人の身をやぶる事はげしくして早し。濕は人の身をやぶる事おそくして深し。故に風寒暑は人おそれやすし、濕氣は人おそれず、人にあたる事ふかし。故に久しくしていえず。濕ある所を早く遠ざかるべし。山の岸近き所を遠ざかるべし。又土あさく、水近く、床ひきゝ處に坐臥すべからず。床を高くし、床の下の壁にまどを開きて、氣を通ずべし。新に塗りたる壁に近づきて坐臥すべからず。濕にあたりて病となりていえがたし。
新字:一病を早く治せんとしていそげば、却てあやまりて病をます。保養はおこたりなくつとめて、癒ゆる事はいそがず、其自然にまかすべし。万の事、あまりよくせんとすれば、却てあしくなる。一居処寝室は、つねに風寒暑湿の邪気をふせぐべし。風寒暑は、人の身をやぶる事はげしくして早し。湿は人の身をやぶる事おそくして深し。故に風寒暑は人おそれやすし、湿気は人おそれず、人にあたる事ふかし。故に久しくしていえず。湿ある所を早く遠ざかるべし。山の岸近き所を遠ざかるべし。又土あさく、水近く、床ひきゝ処に坐臥すべからず。床を高くし、床の下の壁にまどを開きて、気を通ずべし。新に塗りたる壁に近づきて坐臥すべからず。湿にあたりて病となりていえがたし。
書き下し
一病を早く治せんとしていそげば、却てあやまりて病をます。保養はおこたりなくつとめて、癒ゆる事はいそがず、其自然にまかすべし。万の事、あまりよくせんとすれば、却てあしくなる。一居処寝室は、つねに風寒暑湿の邪気をふせぐべし。風寒暑は、人の身をやぶる事はげしくして早し。湿は人の身をやぶる事おそくして深し。故に風寒暑は人おそれやすし、湿気は人おそれず、人にあたる事ふかし。故に久しくしていえず。湿ある所を早く遠ざかるべし。山の岸近き所を遠ざかるべし。又土あさく、水近く、床ひきき処に坐臥すべからず。床を高くし、床の下の壁にまどを開きて、気を通ずべし。新に塗りたる壁に近づきて坐臥すべからず。湿にあたりて病となりていえがたし。
現代語訳
病を早く治そうとして急げば、かえって誤って病を重くします。保養は怠りなく努めて、治ることは急がず、その自然にまかせるべきです。万事、あまりよくしようとすれば、かえって悪くなります。住まいや寝室は、いつも風・寒・暑・湿の邪気を防ぐべきです。風・寒・暑は、人の体をこわすことが激しく早いものです。湿は人の体をこわすことが遅く深いものです。ですから風・寒・暑は人が恐れやすく、湿気は人が恐れないので、人に深くあたります。そのため長く治りません。湿気のある所から早く遠ざかるべきです。山の崖に近い所から遠ざかるべきです。また土が浅く、水が近く、床の低い所に座ったり寝たりしてはいけません。床を高くし、床下の壁に窓を開けて風を通すべきです。新しく塗った壁に近づいて座ったり寝たりしてはいけません。湿気にあたって病となり、治りにくいものです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第六・慎病一古語に、病は少し癒ゆるに加はるといへり。病少しいゆれば、快きをたのんで怠りてつつしまず、少し快しとて、飲食色慾など、恣にすれば、病かへつておもくなる。少しいえたる時、弥かたくおそれつつしみて、少しのやぶれなく怠らざれば、病早くいえて、再発のわざはひなし。此時かたくつつしまざれば、後悔すとも益なし。
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『養生訓』巻第二・総論下一何事も、あまり善くせんとして急けば、必ずあしくなる。病を治するも亦しかり。病あれば医をえらばず、みだりに医を求め薬を服し、又鍼灸をみだりに用ひ、たたりをなす事多し。導引按摩も亦しかり。わが病に当否をしらで、妄に治を求むべからず。湯治も亦しかり。病に応ずると、応ぜざるをえらばず、みだりに湯治して、病をまし死にいたる。およそ薬治鍼灸導引按摩湯治、此六の事、其病と其治との当否をよくえらんで用ふべし。其の当否を知らで、みだりに用ふれば、あやまりて禍をなす事多し。是よくせんとして、かへつて悪しくするなり。
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『養生訓』巻第六・慎病一千金方に曰く、冬温なる事を極めず、夏涼しき事をきはめず。凡一時快き事は、必ず後の災となる。一病生じては、心のうれひ、身の苦甚し。其上、医をまねき、薬を飲み、炙をし、針をさし、酒をたち、食をへらし、さまざまに心をなやまし、身をせめて、病を治せんとせんよりは、初に内欲をこらへ、外邪をふせげば、病おこらず、薬を服せず、針灸せずして、身のなやみ心の苦なし。初しばしの間つつしみ忍ぶは、少しの心づかひなれど、後の患なきは、大なるしるしなり。後に薬と針灸を用ひ、酒食をこらへつつしむは、其苦甚しけれど益すくなし。古語に、終をつつしむ事は、始に於てせよといへり。万の事、始によくつつしめば、後に悔なし。養生の道、ことさらかくのごとし。一飲食色慾の内欲をほしいままにせずして、かたく慎み、風寒暑湿の外邪をおそれ防がば、病なくして、薬を用ひずとも患なかるべし。もし慾をほしいままにして慎まず、只脾腎を補ふ薬治と食治とを頼まば、必ずしるしなかるべし。
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『養生訓』巻第六・慎病或は疫病をうれふ。おそるべし。文禄の朝鮮軍に、戦死の人はすくなく、疫死多かりしは、陣屋ひきくまばらにて、士卒寒湿にあたりし故なりとぞ。居処も寝室も、高くかわける所よし。是皆外湿をふせぐなり。一たび湿にあたればいえがたし。おそるべし。又酒茶湯水を多く飲まず、瓜菓冷麺を多く食はざるは、是皆内湿をふせぐなり。夏月冷水を多く飲み、冷麺をしばしば食すれば、必ず内湿にやぶられ、痰瘧泄痢をうれふ。慎むべし。一傷寒を大病と云ふ。諸病の内尤おもし。わかくさかんなる人も、傷寒疫癘をわづらひ、死ぬる人多し。おそるべし。かねて風寒暑湿をよくふせぐべし。初発のかろき時早くつつしむべし。
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『養生訓』巻第六・慎病一病ある人、養生の道をばかたく慎みて、病をばうれひ苦むべからず。憂ひ苦めば、気ふさがりて病加はる。病おもくても、よく養ひて久しければ、おもひしより病いえやすし。病をうれひて益なし、只慎むに益あり。もし必死の症は、天命の定れる所、うれひても益なし。心をくるしむるは愚なり。
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『養生訓』巻第六・慎病一冬は天地の陽気とぢかくれ、人の血気をさまる時なり。心気を閑にしをさめて保つべし。あたため過して、陽気を発し泄すべからず、上気せしむべからず。衣服をあぶるに、少しあたためてよし。熱きを忌む。衣を多くかさね、又は火気を以て、身をあたため過すべからず。熱湯に浴すべからず。労力して汗を発し、陽を泄すべからず。
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